「DiDi事件」真相2:無産階級、対米不信、国家安全

「DiDi事件」を読み解く鍵が、まさに「無産階級」「対米不信」「国家安全」の3点に集約されています。

 本連載でも適宜扱ってきましたが、習近平政権、特に2017年2期目以降の特徴として、お上からの市場への締め付け、という現象が如実に見て取れます。共産党、中央政府として、政治、経済を問わず、社会の安定や秩序を乱すと解釈する企業、ビジネス行為には、断固としてメスを入れていくということです。

 中国共産党の政治や政策を見てきた立場から言えば、習近平政権を理解する上で非常に重要なポイントが、「無産階級」、すなわち農業従事者や工場労働者などを中心とした、社会の低中所得者層に寄り添う政策を展開することで、政権基盤の強化、支持率の向上につなげようというものです。

 言い換えれば、資本家や富裕層よりも、労働者や低所得者層に優しい、後者のほうがメリットを享受できる政権運営に終始しているということです。資本家の共産党入党を認めた江沢民(ジャン・ザーミン)、それを基本的に継承した胡錦涛(フー・ジンタオ)両元総書記の時代とは、だいぶ様相が異なっているということです。

 アリババやアント・フィナンシャルの時もそうでしたが、ユーザーが約5億人いるとされるDiDi社のサービスも、中国消費者の間では物議を醸してきており、多くの不満や不信が蓄積してきた経緯があります。

 代表的なものとしては、「個人情報の収集が過ぎる。何に使われているのか分からない」「アプリをダウンロードした後、全ての権限をDiDiに授けないと使用できない」「領収書の発行が正常に行われない」などがあります。

 当局はこのような人民の間で広がっていた不満や不信につけ込み、声明文にもあるように、「公共利益の保障」、言い換えれば、人民の権益を死守するという観点から、DiDi社に対して審査を発動したということです。実際に、私が見る限り、今回の制裁措置を、広範な中国人民が支持しています。

 北京在住の知人(女性、30代、国有企業勤務、年収800万円)が私に語った言葉は、多くの人民の心の声を反映しているように思われます。

「私たちの権益を不当に吸い取っているのが資本家たち。共産党が彼らの動きを監視し、圧力をかけなければ、人民はだまされ、大損してしまう」

 中産階級に属し、考え方も比較的リベラルなこの知人ですら「資本家」と「共産党」の関係をこのように整理し、自らの権益を守るために後者に希望を見いだしているのです。私の観察によれば、14億の総人口のうち13億以上、5億の同社ユーザーのうち4億8,000万人以上が、今回の当局による審査と規制を支持しています。