「DiDi事件」真相1:習近平新時代、個人情報、米国上場

 結論から言えば、今回の「DiDi事件」は、決して突発事件でも、個別案件でもなく、昨今における国内外の情勢に照らし合わせた、中国当局の現状認識、リスク意識から生じている、綿密な戦略に基づいた行動であり、措置だということになります。

 例として、DiDi社に通告が下った翌日、7月5日、トラック専門の配車サービスを手掛ける満幇集団(フル・トラック・アライアンス)、および人材マッチングサービスを手掛けるBOSS直聘(BOSS Zhipin)にも対DiDiと一字一句違わない、全く同じ文言で通告がなされています。当局が同3社に対して抱く懸念が同じであるという現状を物語っています。

 3社の共通点はいろいろありますが、私から見て重要なのは3つです。

 一つ目が、3社とも、習近平(シー・ジンピン)第1次政権時(2012~2017年)に設立し、そこから第2次政権時にかけて急速に成長した、民間のスタートアップだという点。

 二つ目が、3社とも、多くの顧客を抱え、IT企業としての技術を駆使し、膨大な量の個人情報やデータを入手している点。

 三つ目が、3社とも、2021年6月に米国に上場したという点。

銘柄 上場日 上場先 上場初日の時価総額
DiDi 6月30日 ニューヨーク証券取引所 685億ドル
満幇 6月22日 ニューヨーク証券取引所 234億ドル
BOSS 6月11日 ナスダック 149億ドル

 3社にしてみれば、念願の米国でのIPOから1カ月と経たないうちに、中国当局からの「制裁」に遭遇したということで、株価を含め、先行きを不安視していることでしょう。しかしながら、アリババ社が独禁法違反で3,000億円の罰金を食らったとき、同社傘下にあるアント・フィナンシャル社の上海、香港での同時IPOが延期になったとき、創設者のジャック・マー氏が対応した際と同様、3社の創設者、経営陣にとって選択肢はありません。

 DiDi社が表明したように、当局の意見や要求を受け入れ、それに基づいて、会社経営を見直していくしかないのです。これらの会社が引き続き、中国に拠点を置き、中国人を雇い、14億の中国人消費者を相手に、巨大マーケットを主要なよりどころとして、収益をあげていきたいのであれば、です。「当局の要求を受け入れない=当局を敵に回す」ですから。

 当局を敵に回して、中国市場でビジネスを展開していけることはあり得ません。中国企業、外国企業、上場企業、非上場企業を含めてです。