「有事のムード」をかき立てる要素は、弱まることなく、今後も影響を与え続けるか

図:足元の「有事のムード」の動向

出所:筆者作成

 今、世界的な不安が同時に発生しています。中には長期化が予想されるものもあり、不安が世界からなくなる日はなかなか来ないようにさえ、思えてきます。仮に一つ、不安が解消したとしても、また新しい不安が発生する可能性もあります。

 サイバー攻撃による重要インフラ停止は、以前より散発していましたが、今月、米国で発生したような規模の大きい事件は、世界各地で今後も発生する可能性があります。現代ならではの先端技術を駆使したこの手の事件に、要注意です。

足元、金は「代替通貨」として注目されている

 以下のグラフは、金価格および、「代替資産」や「代替通貨」に関連する米10年債利回り、ドル指数、ビットコイン、NYダウの推移を示しています。足元の金価格が「何の代替(何の代わり)」で動いているのかがわかります。

図:金価格と米10年債利回り、ドル指数、ビットコイン、NYダウの推移

出所:ブルームバーグより筆者作成

 上図より、足元、金(ゴールド)は「代替通貨」として注目を集めていると言えます。長期金利の目安になる米10年債利回りの上昇の頭打ち、ドル指数の下落、代替通貨で競合する性格を持つビットコインの下落と歩調を合わせるようにして、金価格が上昇しています。これはまさに、金がドルの代わり「代替通貨」として注目されている証と言えます。

 現在、米国の金融緩和の最中であるため、以前の「新社会人の皆さんに伝えたい、密になってはいけない“商品市場の過去の常識”」 で述べたとおり「株高・金高」が発生しやすい状況にあります。このため、株の代わりである「代替資産」という側面では、注目は集まっていないように感じます。

目先、「代替通貨」に関わる材料は特に継続しやすく、引き続き押し上げ要因となるか

「代替通貨」として今後も金に注目が集まり続けるかどうかは、米国の金融政策の方向性が重要なカギを握ります。以下は、5月19日に公表された、4月27日と28日に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事録の抜粋です。

図:FOMC議事録(抜粋) 2021年5月19日公表分

出所:各種報道をもとに筆者作成

 この議事録の公表を受け、段階的な金融引締め(テーパリング Tapering 先細りの意)が示唆された旨の報道がありました。実際のところ、同じ議事録には、逆の内容、つまり現在の金融緩和を継続する趣旨の記載もあります。

 米国の雇用の最大化と物価の安定化をその役割とする中央銀行としてFRB(米連邦準備制度理事会)は、「一段と顕著な進展」があるまで、金融緩和策の具体的な手法である、資産買い取りと低金利策を継続するとしています。

 米国の雇用情勢は、失業率が4月時点で6.1%と、まだまだコロナ前の水準(2020年2月は3.5%)よりも高水準です。コロナショック直後、14.8%まで上昇し、その後低下しつつあるものの、今年に入り6%前後で定着しつつあります。まだ、雇用情勢が盤石な状態とは言い難い状況です。

 また、経済情勢の「実態」を映す原材料の需要を見ると、以下のとおり、米国国内では銅も石油も、コロナ前の水準に回復していません。銅も原油も、価格こそ、比較的高水準を維持しているものの、需要の回復は本調子とは言えません。

図:米国の銅と石油の需要

出所:ブルームバーグおよび米エネルギー省(EIA)のデータをもとに筆者作成

 インフレが叫ばれながらも、「実態を伴わない」物価上昇であれば、金融引き締めはもとより、金融緩和の終了すらできる状況にないと、筆者は考えます。