金相場年内2,000ドル回復は単なる妄想なのか?否。条件がそろえば達成可能と考える

 足元、金(ゴールド)価格の上昇が目立っています。3月はじめから先週末まで、およそ10%、上昇しました。以下の図のとおり、昨年8月につけた1トロイオンスあたり2,000ドルに再度到達し、さらに上値を伸ばして史上最高値を更新する気配が漂いつつあります。

図:ドル建て金価格の推移 単位:ドル/トロイオンス

出所:楽天MT4より筆者作成

 このグラフを見た時、筆者の頭の中に、「どうなれば、年内に2,000ドルに到達するのだろう?」と妄想じみた考えがよぎりました。しばらく妄想したところ、次の仮説が思い浮かびました。「足元の上昇要因が継続すれば」現実になるのではないか? と。

 以下は、2020年3月に発生し、金さえも売られた総売り「コロナショック」以降の、金相場の上昇時の要因です。これらの足元の上昇要因が継続すれば、妄想が現実のものとなる(金相場が年内2,000ドルに達する)のではないか、と考えました。

図:金相場、年内2,000ドル到達に必要だと考える材料

出所:筆者作成

 これら4つの材料は、今後も存在し続ける可能性はあるのでしょうか。以下より、4つの材料の今後の展開について、考察します。

年内に期間をしぼった場合、考慮するべきテーマは3つ

 以下のグラフは、以前の「アドラー心理学に学ぶ、純金積立で成功するための秘訣[2]」で述べた、重要6テーマの、金相場への時間的な影響をイメージ化したものです。

図:金相場における重要6テーマの時間的な影響(イメージ)

出所:筆者作成

「年内」と妄想したため、数年、時には数十年に及ぶことがある長期的なテーマは、今回の考察では重視しないこととしました。長期的なテーマは「中国・インドの宝飾需要」「中央銀行の金保有」「鉱山会社」です。

 短・中期的なテーマは、「有事のムード」「代替資産」「代替通貨」の3つです。「年内2,000ドル」が現実のものとなるかは、この3つの視点から今後の金相場を考察する必要があります。その上で、先述の4つの材料がどう展開しそうかを考えます。

「有事のムード」をかき立てる要素は、弱まることなく、今後も影響を与え続けるか

図:足元の「有事のムード」の動向

出所:筆者作成

 今、世界的な不安が同時に発生しています。中には長期化が予想されるものもあり、不安が世界からなくなる日はなかなか来ないようにさえ、思えてきます。仮に一つ、不安が解消したとしても、また新しい不安が発生する可能性もあります。

 サイバー攻撃による重要インフラ停止は、以前より散発していましたが、今月、米国で発生したような規模の大きい事件は、世界各地で今後も発生する可能性があります。現代ならではの先端技術を駆使したこの手の事件に、要注意です。

足元、金は「代替通貨」として注目されている

 以下のグラフは、金価格および、「代替資産」や「代替通貨」に関連する米10年債利回り、ドル指数、ビットコイン、NYダウの推移を示しています。足元の金価格が「何の代替(何の代わり)」で動いているのかがわかります。

図:金価格と米10年債利回り、ドル指数、ビットコイン、NYダウの推移

出所:ブルームバーグより筆者作成

 上図より、足元、金(ゴールド)は「代替通貨」として注目を集めていると言えます。長期金利の目安になる米10年債利回りの上昇の頭打ち、ドル指数の下落、代替通貨で競合する性格を持つビットコインの下落と歩調を合わせるようにして、金価格が上昇しています。これはまさに、金がドルの代わり「代替通貨」として注目されている証と言えます。

 現在、米国の金融緩和の最中であるため、以前の「新社会人の皆さんに伝えたい、密になってはいけない“商品市場の過去の常識”」 で述べたとおり「株高・金高」が発生しやすい状況にあります。このため、株の代わりである「代替資産」という側面では、注目は集まっていないように感じます。

目先、「代替通貨」に関わる材料は特に継続しやすく、引き続き押し上げ要因となるか

「代替通貨」として今後も金に注目が集まり続けるかどうかは、米国の金融政策の方向性が重要なカギを握ります。以下は、5月19日に公表された、4月27日と28日に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)の議事録の抜粋です。

図:FOMC議事録(抜粋) 2021年5月19日公表分

出所:各種報道をもとに筆者作成

 この議事録の公表を受け、段階的な金融引締め(テーパリング Tapering 先細りの意)が示唆された旨の報道がありました。実際のところ、同じ議事録には、逆の内容、つまり現在の金融緩和を継続する趣旨の記載もあります。

 米国の雇用の最大化と物価の安定化をその役割とする中央銀行としてFRB(米連邦準備制度理事会)は、「一段と顕著な進展」があるまで、金融緩和策の具体的な手法である、資産買い取りと低金利策を継続するとしています。

 米国の雇用情勢は、失業率が4月時点で6.1%と、まだまだコロナ前の水準(2020年2月は3.5%)よりも高水準です。コロナショック直後、14.8%まで上昇し、その後低下しつつあるものの、今年に入り6%前後で定着しつつあります。まだ、雇用情勢が盤石な状態とは言い難い状況です。

 また、経済情勢の「実態」を映す原材料の需要を見ると、以下のとおり、米国国内では銅も石油も、コロナ前の水準に回復していません。銅も原油も、価格こそ、比較的高水準を維持しているものの、需要の回復は本調子とは言えません。

図:米国の銅と石油の需要

出所:ブルームバーグおよび米エネルギー省(EIA)のデータをもとに筆者作成

 インフレが叫ばれながらも、「実態を伴わない」物価上昇であれば、金融引き締めはもとより、金融緩和の終了すらできる状況にないと、筆者は考えます。

調整色を強めるビットコインも、金の「代替通貨」としての役割を際立たせている

 ビットコインをはじめとした暗号資産が調整色を強めている点も、金が「代替通貨」として注目を集めるきっかけとなっていると、考えられます。

 ドル金利が低下したり、ドルが下落したりすると、ドルの代わり、いわゆる「代替通貨」が物色されることがあります。この「代替通貨」の物色の際、暗号資産や金に注目が集まることがあります。ビットコインも金も、どこの国の信用も必要としない「無国籍通貨」という共通の側面を持っているためです。

 今年1月半ば以降、「代替通貨」内で競合が起きていると、筆者は考えています。先ほどの図、「金価格と米10年債利回り、ドル指数、ビットコイン、NYダウの推移」のとおり、1月半ば以降、ビットコインと金は逆の動きをしています。競合が続く中、今後さらにビットコインが調整色を強めれば、金はその逆の動きをする(さらに反発する)可能性があります。

図:ビットコインをめぐる、足元の環境

出所:各種メディアより筆者作成

「金価格年内2,000ドル」は、妄想の域にとどまらないだろう

 重要テーマである「有事のムード」においては、今後も不安が継続・散発する可能性があり、「代替通貨」においては、米国の金融政策が引き続き緩和的で、暗号資産の調整は続く可能性がある、との理由から、短・中期的にこれら2つのテーマがきっかけとなり、今後も金相場が上値を伸ばす可能性があると考えられます。

 この点を考慮した、序盤で示した、4つの材料の今後の見通しは以下のとおりです。

図:年内2,000ドル到達に必要だと考える材料の今後の展開

出所:筆者作成

 このように考えれば、「金価格年内2,000ドル」は、妄想の域にとどまらず、現実になる可能性もあるかもしれません。引き続き、金相場の動向に、注目です。

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 [参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

 楽天証券の純金積立「金・プラチナ取引」はこちらからご参照ください。

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

商品CFD(金・銀)