金と原油、イラン制裁解除は目先の下落要因になり得るものの、長期的には上昇要因

 目先、再来月に迫ったイランの大統領選挙と9月の米兵のアフガニスタン撤退によって、中東地域がどれだけ中国色を強めるか(相対的に米国色を弱めるか)が、同地域の混乱の度合いの大きさに関わると筆者は考えています。

 同地域の混乱は、宗教上の混乱を深めたり、エネルギー安全保障上の障害が大きくなったり、大国間の覇権争いが激化したりするなど、さまざまな分野に幅広い不安をもたらします。こうした不安がきっかけで生じる「有事のムード」は、金(ゴールド)相場の変動要因の一つと考えられます。

※有事のムードを含む金相場の「6つのテーマ」は前回のレポートで述べています。「厳し過ぎる現実。ワクチン登場5カ月で患者数3倍。金相場とコロナの今後の関係は?」

 また、主要産油国が集まる中東地域の交通の要衝である、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ「ホルムズ海峡」は、北側のイランと南側のオマーン(飛び地)に挟まれています。先述の図「中東の中国傾斜が進んだ場合の筆者のイメージ」参照

 2国とも、中国に港湾の利用権を与えていると報じられていることから、これまでイランの専売特許だった“ホルムズ海峡封鎖の示唆”が、近い将来、中国によってなされる可能性もゼロではなくなったと、言えるかもしれません。

 港湾の利権を有する中国が、ホルムズ海峡という水道を、イランとオマーンという蛇口で開閉できるようになった場合、中国の思惑が原油相場の大きな変動要因の一つになる可能性があると考えられます。

 中国は世界最大級の石油消費国ですので、原油価格が下落すれば、資源の調達コストの低下というメリットが生じますが、上昇した場合でも、自らが精製した石油製品の販売価格上昇、自国の原油市場(上海期貨交易所)の売買活性化などのメリットが生じます。

 中国自ら「蛇口を閉じて」原油価格を上昇させた場合、油田の権益を持つ世界中の産油国あるいはエネルギー企業が恩恵を享受し、それらの国・企業の中に「中国によって恩恵をもたらされた」という意識が芽生え、その結果、世界における中国の地位が向上することが考えられます。

 中国は、中東進出を『一帯一路』構想の延長にとどまらず、エネルギー価格の主導権獲得や世界中の産油国・エネルギー企業を配下に収めることを目指す施策として位置づけていると、筆者は考えています。

 冒頭のとおり、1950年前後、イランの石油を事実上独り占めし、同国に大きな影響力を持っていたのは英国でした。その後、イランから重要な情報を入手し、同時多発テロ(2001年9月11日)の首謀者を含め多くのタリバン勢力を掃討したのは米国でした。そして今、イランに急接近している大国は中国です。

 6月のイランの大統領選挙と9月の米兵のアフガニスタン撤退は、イランを中心に中東地域の中国色が強まる(相対的に米国色が弱まる)要因になり得ると筆者は考えています。この時に生じる混乱や変化は、金(ゴールド)相場にも原油相場にも、上昇圧力をかける可能性があると考えられます。イランをめぐる情勢から、目が離せません。

図:NY金先物(期近 日足) 単位:ドル/トロイオンス

出所:マーケットスピードⅡより筆者作成

図:NY原油先物(期近 日足) 単位:ドル/バレル

出所:マーケットスピードⅡより筆者作成

[参考]金と原油の具体的な投資商品例

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)

国内ETF/ETN

WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039

投資信託

UBS原油先物ファンド

外国株

エクソンモービルXOM
シェブロンCVX
トタルTOT
コノコフィリップスCOP
BPBP