2020年のプラチナ市場は、この45年間で最大の“供給不足”だった
なぜ、足元、プラチナ価格は上昇しているのでしょうか。その理由を、データに求めます。3月10日(水)、プラチナの統計データを集計する世界的な機関であるWorld Platinum Investment Council(以下WPIC)は、四半期の統計を公表しました。
同機関のウェブサイトで公表されているデータによれば、2020年のプラチナ市場は、この45年間で最大の“供給不足”でした。
図:プラチナの需給バランス(供給-消費) 単位:千トロイオンス
(1)新型コロナの感染拡大→景気悪化懸念→産業用需要減退懸念→プラチナ消費減少、(2)バイデン新政権誕生→クリーンエネルギー台頭期待→ディーゼル車に用いられるプラチナ消費減少という、2つの連想が働きやすかった2020年は、プラチナの需給バランスは大幅な供給過剰に陥ったように見えたものの、データで確認すれば、歴史的な供給不足だったわけです。
供給不足は、需給バランスが引き締まっていることを意味します。需給バランスの引締まりは、価格の上昇要因になり得ます。足元の記録的な価格上昇の背景には、先述の(1)や(2)の、イメージしやすい価格の下落シナリオを覆す、データが示す需給バランスの引締まりがあったのです。
2020年は、鉱山生産大幅減、投資需要増加が目立った
需給バランスは、供給-需要、で計算します。つまり、需給バランスは、供給と需要の2つの要素でできています。新型コロナの感染拡大によって需要が落ち込んでいることは、容易に想像がつきますが、供給にも、需要と同じように想像を巡らす必要があります。
以下は、2019年と2020年の、プラチナの需要と供給の推移です。需要と供給、ともに減少していますが、減少幅は、需要よりも供給の方が大きいことが分かります。
図:プラチナの需要と供給(2019年と2020年) 単位:千トロイオンス
供給のメインである鉱山生産を国別で見ると、以下のようになります。南アフリカで大規模な供給減少が起きたことがわかります。コロナ禍の折、地下数千メートルでの作業が、より困難になったことに加え、同国の電力供給に支障が生じ、生産活動が停滞したことが要因とみられます。
表:プラチナの鉱山生産 単位:千トロイオンス
2019年 | 2020年 | 増減 | |
---|---|---|---|
南アフリカ | 4,402 | 3,269 | -1133 |
ジンバブエ | 455 | 476 | +21 |
北米 | 356 | 337 | -19 |
ロシア | 716 | 704 | -12 |
その他 | 165 | 183 | +18 |
出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成 |
また、以下は、需要の中で、増加した“投資向け”の増減です。北米と日本で地金・コインが大きく増加したことがわかります。WPICのレポートには、北米では、2020年の第4四半期、地金・コインの需要が目立って増加したが、その背景には、コロナ禍の折、個人の可処分所得が増えたことが挙げられる旨の記載があります。
日本では、金(ゴールド)に比べて価格が安いという点に注目が集まったことが、地金・コインの需要が増加した一因と考えられます。
表:プラチナの投資需要(北米、欧州、日本、その他は地金・コイン・ETFの合計) 単位:千トロイオンス
2019年 | 2020年 | 増減 | |
---|---|---|---|
北米 | 284 | 839 | +555 |
欧州 | 561 | 253 | -308 |
日本 | 33 | 330 | +297 |
その他 | 395 | -263 | -658 |
取引所の在庫変動 | -20 | 500 | +520 |
出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成 |