プラチナ相場は昨年11月以降、およそ40%の上昇

 以下のとおり、プラチナ価格は、昨年(2020年)11月の、バイデン新政権と有効性の高い新型コロナ向けワクチンの誕生を機に発生した強い期待先行相場“バイデン・ワクチン相場”発生以降、およそ40%も、上昇しています。

 米国の主要企業が投資をしていることが公表されたことを機に、もはや異次元ともいえる値動きになっているビットコインや、ビットコインと同じ暗号資産のイーサリアムを除けば、上昇率の高さは、主要銘柄の中では原油に次ぐ、2番目です。

 また、直近で史上最高値を更新しているNYダウ(21.7%)だけでなく、アジアや欧州の主要株価指数の上昇率をも上回っています。

図:ジャンル横断騰落率ランキング(2020年11月2日から2021年3月12日まで)

出所:マーケットスピードⅡなどのデータをもとに筆者作成

 全体的には、この間(2020年11月2日から2021年3月12日)、主要株価指数、通貨、コモディティ(商品)、暗号資産(仮想通貨)の4つのジャンルを横断した、合計25の主要銘柄のうち、下落したのはドルと金(ゴールド)のみで、それ以外は上昇しました。

 今年に入り、米国の長期金利の目安とされる米10年債利回りが上昇し、景気の過熱感や債券相場の動向への懸念が取り沙汰される中にあっても、バイデン政権やワクチン流通への強い期待が持続していること、米国の金融緩和が継続していること、米国で追加の経済対策が実施されることになったことなどが、ジャンルを横断したリスク資産の価格を上昇させていると考えられます。

2015年9月のフォルクスワーゲン問題発覚前の水準まで回復

 プラチナ相場は、以下の図のとおり、2020年11月以降の上昇の最中、“フォルクスワーゲン問題”発覚前の水準まで回復しました。

図:NYプラチナ先物価格推移(中心限月 月足 終値) 単位:ドル/トロイオンス

出所:ブルームバーグのデータより筆者作成

 2015年9月、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが違法な装置を使い、不正に排ガス浄化装置のテストをくぐり抜けていた問題(フォルクスワーゲン問題)が、米環境保護庁の発表で発覚しました。

 当時、この問題発覚により、ディーゼル車の生産台数が激減し、同車の排ガス浄化装置に用いられるプラチナの需要が激減し、プラチナの価格が急落する懸念が生じました。

 実際には、「プラチナ取引で知っておきたい3つの「勘違い」」述べたとおり、欧州における自動車排ガス浄化装置向けの消費量は激減しておらず、当時の懸念は杞憂(きゆう)だったわけですが、一般の人でもプラチナ相場が下落するシナリオを描きやすかったことも手伝い、この問題発覚は、プラチナ相場の長期的な上昇を阻む重石(呪縛)のような存在となっていました。

 その意味では、足元の価格上昇は、プラチナ相場がフォルクスワーゲン問題の呪縛から解き放たれたことを示唆しているようにも見えます。

2020年のプラチナ市場は、この45年間で最大の“供給不足”だった

 なぜ、足元、プラチナ価格は上昇しているのでしょうか。その理由を、データに求めます。3月10日(水)、プラチナの統計データを集計する世界的な機関であるWorld Platinum Investment Council(以下WPIC)は、四半期の統計を公表しました。

 同機関のウェブサイトで公表されているデータによれば、2020年のプラチナ市場は、この45年間で最大の“供給不足”でした。

図:プラチナの需給バランス(供給-消費) 単位:千トロイオンス

出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成

(1)新型コロナの感染拡大→景気悪化懸念→産業用需要減退懸念→プラチナ消費減少、(2)バイデン新政権誕生→クリーンエネルギー台頭期待→ディーゼル車に用いられるプラチナ消費減少という、2つの連想が働きやすかった2020年は、プラチナの需給バランスは大幅な供給過剰に陥ったように見えたものの、データで確認すれば、歴史的な供給不足だったわけです。

 供給不足は、需給バランスが引き締まっていることを意味します。需給バランスの引締まりは、価格の上昇要因になり得ます。足元の記録的な価格上昇の背景には、先述の(1)や(2)の、イメージしやすい価格の下落シナリオを覆す、データが示す需給バランスの引締まりがあったのです。

2020年は、鉱山生産大幅減、投資需要増加が目立った

 需給バランスは、供給-需要、で計算します。つまり、需給バランスは、供給と需要の2つの要素でできています。新型コロナの感染拡大によって需要が落ち込んでいることは、容易に想像がつきますが、供給にも、需要と同じように想像を巡らす必要があります。

 以下は、2019年と2020年の、プラチナの需要と供給の推移です。需要と供給、ともに減少していますが、減少幅は、需要よりも供給の方が大きいことが分かります。

図:プラチナの需要と供給(2019年と2020年) 単位:千トロイオンス

出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成

 供給のメインである鉱山生産を国別で見ると、以下のようになります。南アフリカで大規模な供給減少が起きたことがわかります。コロナ禍の折、地下数千メートルでの作業が、より困難になったことに加え、同国の電力供給に支障が生じ、生産活動が停滞したことが要因とみられます。

表:プラチナの鉱山生産 単位:千トロイオンス

  2019年 2020年 増減
南アフリカ 4,402 3,269 -1133
ジンバブエ 455 476 +21
北米 356 337 -19
ロシア 716 704 -12
その他 165 183 +18
出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成

 また、以下は、需要の中で、増加した“投資向け”の増減です。北米と日本で地金・コインが大きく増加したことがわかります。WPICのレポートには、北米では、2020年の第4四半期、地金・コインの需要が目立って増加したが、その背景には、コロナ禍の折、個人の可処分所得が増えたことが挙げられる旨の記載があります。

 日本では、金(ゴールド)に比べて価格が安いという点に注目が集まったことが、地金・コインの需要が増加した一因と考えられます。

表:プラチナの投資需要(北米、欧州、日本、その他は地金・コイン・ETFの合計) 単位:千トロイオンス

  2019年 2020年 増減
北米 284 839 +555
欧州 561 253 -308
日本 33 330 +297
その他 395 -263 -658
取引所の在庫変動 -20 500 +520
出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成

自動車触媒需要、2020年は減少するも、リーマンショック時よりも水準は上

 以下は、プラチナ需要のおよそ30%を占める(2020年時点)、自動車の排ガス浄化装置向けの需要の推移です。

図:プラチナの自動車排ガス浄化装置向け需要 単位:千トロイオンス

出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成

 2020年、世界全体で見ても、主要消費地である欧州で見ても、自動車排ガス浄化装置向け需要は減少したものの、ともに、リーマンショック時の水準までは低下していません。コロナ禍でも、同需要は歴史的な急減にはなっていないことがわかります。

 また、WPICの見通しでは、世界全体の同需要は、2021年、回復するとしています。有効性が高い新型コロナ向けワクチンが世界的に流通すること、主要国で金融緩和が継続することなどによって、世界景気が回復する可能性がある点を織り込んでいるとみられます。

宝飾需要、2021年に最悪期を脱するか

 宝飾需要は、中国を除けば、コロナ前の数年間が増加傾向にありました。2020年にコロナ禍のため、減少したものの、世界的な景気回復が鮮明になれば、再び増加基調になる可能性があります。

図:プラチナの宝飾需要 単位:千トロイオンス

出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成

まだ小規模だが、中国の自動車触媒など一部の産業用需要の増加がはじまっている

 ここまで、分野別の需要に注目してきました。ここでは、国別、特に中国のプラチナ消費について確認します。中国のプラチナ消費と言えば、これまで、“宝飾向けが急減中”、“自動車排ガス浄化装置向けには使われない(パラジウムをメインとしているため)”という傾向がありましたが、近年は、自動車排ガス浄化装置向けの需要が、増加しつつあります。

 パラジウムに比べた割安感がある点に注目が集まり、ガソリン車だけでなく、ディーゼル車の製造が拡大している可能性があります。

 また、“ガラス”向けの需要が増加している点も、注目です。プラチナのガラス向け需要とは、
融点(固体が液体になりはじめる温度)が高い特徴を利用し、LCD(液晶ディスプレイ)用のガラス溶解装置などに用いられる需要です。

 液晶ディスプレイを搭載した電子機器の製造が活発化している点が、中国の同需要を押し上げている可能性があります。

図:中国の産業向けプラチナ需要 単位:千トロイオンス

出所:WPICのウェブサイトのデータより筆者作成

“新時代”の要素も加わり、中長期的には1,450ドルを目指すか

 また、統計データではまだ目立っていないものの、今後、新しい需要が生まれ、プラチナ価格を押し上げる可能性があります。コロナ禍の折、世界中に急速に浸透し、ブーム化しつつある“脱炭素”が、水素生成装置や燃料電池車の発電装置の電極部分向けの、プラチナの需要を拡大させる可能性があります。

 また、日欧で大気中の二酸化炭素を吸収して作られる合成液体燃料の研究が進んでいますが、この研究が進めば進むほど、合成液体燃料を添加した燃料で自動車が走る可能性が高まります。

 添加される燃料は、ガソリンや軽油といった化石燃料由来の燃料であるため、合成液体燃料が一般化すればするほど、化石燃料の使用が温存される、つまり、プラチナやパラジウムを用いる排ガス浄化装置を搭載する自動車の需要が温存されることになります。

図:プラチナ市場における“新時代”の材料

出所:筆者作成

 本レポートを作成しながら感じたことは、統計データ上、今のところ、プラチナ市場を悲観的に見る必要はなさそう、という点です。コロナ禍であっても、自動車排ガス浄化装置向けの需要は、リーマンショック時ほど減少していない、むしろ2021年は世界経済の回復の流れを受けて、同需要は今後回復することが見込まれています。

 また、中国におけるガラスや自動車排ガス浄化装置向けが、近年、増加傾向にあるなど、これまでになかった流れが起きつつある需要もあります。

 統計外で言えば、ブーム化している“脱炭素”がプラチナに新しい需要を与えたり、既存の需要を一定程度、温存したりする可能性もあります。

 全体的には、長期的視点で見れば、「プラチナ6年ぶりの高値!たった1週間で10%上昇!1,450ドルも射程範囲に入ったか」 で述べたような、1トロイオンスあたり1,450ドル程度まで上昇する可能性があると、考えています。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)