日経平均の見通し

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

「強気の見通し強まるが、慎重な見方も」

 今回調査における日経平均の見通しDIの結果は、1カ月先がプラス29.16、3カ月先はプラス12.68となりました。

 前回調査がそれぞれプラス16.51、6.87でしたので、ともにDIの値がさらに強気に傾いた格好です。回答の内訳グラフを細かく見てみても、1カ月先の強気派の割合が40%を超えていることが分かります。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成
出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 ちなみに、1カ月先の強気派が40%を超えるのは2018年9月調査以来になります。当時の日経平均は、数カ月間繰り返してきた2万2,000円~2万3,000円台でのもみ合いから上放れして2万4,000円台に乗せたタイミングでした。ただし、その後は下落に転じ、年末の12月には2万円台割れの水準まで値を下げています。

 そのため、3万円台に乗せた今回の日経平均も下がって行くというわけではありません。実際に、今回の調査で反映されていない2月月末にかけての急落についても、3月1日の取引では大きく反発して始まっており、いったんは落ち着きを見せています。とはいえ、2018年9月調査時の状況を振り返ると、株価ともに米10年債利回りも上昇しており、米金利上昇への警戒感が強まっていたことなどの共通点があるため、一応は意識しておいた方が良いかもしれません。

 さらに、当時の日経平均は、その後の米中対立への懸念が拍車をかける格好で株価水準を切り下げていきましたが、足元でも、3月5日から開幕する中国の全人代(全国人民代表大会)を前に、米バイデン政権が中国依存からの脱却を視野に、半導体や電池、医薬品、レアアースの分野で供給網を100日内に見直す方針を打ち出しました。恐らく、全人代のタイミングで放たれた米国側からの政治的な「ジャブ」と思われます。

 その全人代では、香港の民主派を排除するため、選挙制度の見直しが議論されるほか、政治・経済、外交面などの長期スタンスが示される見込みとなっています。以前は、バイデン政権が誕生すれば米中関係の修復が進むという期待もありましたが、今のところ、バイデン政権の対中姿勢はトランプ政権時のものを多く踏襲しており、関係改善よりも対立を意識させる動きの方が目立っている印象です。香港問題は対立の論点のひとつであるため、米中関係に対する懸念がくすぶっているという点も2018年の時と似ていると言えます。

 また、株価急落の要因となった米国の長期金利上昇については、コロナ禍からの正常化に伴う景気回復の強さの表れであれば、ある程度の金利上昇は許容範囲で、金融緩和の両立は可能というこれまでの見方が、米10年債の利回りの早い上昇ピッチをきっかけに、「思ったよりもFRB(米連邦準備制度理事会)の引き締めが早くなるかもしれない」、「金利上昇の要因が期待インフレではなく、実施金利の上昇によるところが大きく、悪い金利上昇への警戒が強まったかもしれない」、「まもなく成立が見込まれる米追加経済対策の財源として、国債の増発が想定されるため、債券市場が不安定化しそう」などの思惑が一斉に絡んできたため、株式市場が消化不良を起こして、「とりあえず売っておこう」となった状況で、消化が進み、次の方向感が出てくるまでにはしばらく時間がかかる可能性があります。

 そのため、中期的な株高見通しシナリオに変化が生じたと判断するのはまだ早いと思われますが、金融緩和縮小の気配を感じただけで売られやすくなっている相場地合いであることには注意しておく必要がありそうです。