ポイント4:「第14次五カ年計画」や2035年までの中長期目標の実態は?

「内」への重視に体現される習近平政権の新国家戦略が「国内大循環」、および国内と海外の「双循環」ですが、これらは2021~2025年の「第14次五カ年計画」を貫通するものになると思っています。全人代を通じて、その「計画」の全貌や詳細が明らかになる見込みです。

 中国は以前、2011~2020年の10年間で、GDPと一人当たりGDPを倍増させるという目標を立てました。それを2021~2035年の15年間で、さらに倍増させる野心的な目標を掲げようとしています。これらの目標設定にも注目したいところです。

 また、個人的には、2035年までというスパンでいえば、昨年開催された五中全会で「2027年という建軍百周年に向けた奮闘目標」という新たな文言にあるように、これからの15年で、中国人民解放軍がどんな動きを見せるか、その中で台湾問題にどう向き合っていくか、習近平はいつまで最高指導者として居座るのかを非常に注視しています。ちなみに、2035年時点で、習近平は82歳。毛沢東は83歳で逝去するまで最高指導者として君臨しました。

ポイント5:国防予算と台湾問題

 毎年、全人代を取材する記者たちが最も注目する数字の一つが、国防予算です。2020年は、コロナ禍という異例の状況もあってか、過去30年で最低の前年比6.6%増でした。8%の経済成長率が見込める今年は、この数字がどう変わるのか、見ものです。

 連日、日本の紙面や世論を騒がせているように、中国船の尖閣諸島沖での挑発的行為はとどまるところをしりません。中国共産党は軍事力増強が対米関係を優位に進める、台湾問題を解決するための十分条件と捉え、最優先事項の一つとして推し進めてきました。近年、中国は台湾への軍事的圧力をあからさまに強めています。

 仮に、中国―台湾―米国の間のパワーバランスが崩れたり、何かがトリガー(引き金)となって軍事衝突が起これば、それはマーケットにとっては壊滅的な打撃となります。以前レポートでも扱ったように、中国の「台湾侵攻」は最大のチャイナリスクになると思っています。

 この意味で、台湾問題が「報告」でどのように記述されるかは極めて重要なのです。そこから、党や軍の指導部が現在何をもくろんでいるかがある程度見えてくるからです。

ポイント6:香港情勢は何処へ?

 香港情勢は予断を許さない状況が続いています。

 2月28日、香港警察は1月に逮捕した民主派50人超のうち47人について、国家転覆を狙った、「国家安全法」に違反したとして起訴しました。逮捕者の多くはその後、保釈されていましたが、47人は突然、警察に出頭することと、3月1日に出廷することを要求されました。

 これに先立って、2月22日、国務院香港マカオ事務弁公室主任(閣僚級)で、習近平にも近い夏宝龍(シャー・バオロン)が談話を発表し、「愛国者による香港統治」(中国語で「愛国者治港」)という新たな概念を提起、香港の統治機構(立法、行政、司法を含む)から、愛国的ではない、すべての反対派(すなわち「民主派」)を排除する方針をあらわにしました。

 また、「愛国者治港」を貫徹する上で、香港における選挙制度も変えると明言しています。昨年の全人代で「国家安全法」の制定が最大の焦点の一つとなったように、今年の全人代でも香港が再びクローズアップされる見込みです。

 そして9月には、1年延期になった香港立法会選挙が控えています。それに向けて、反対派や民主派にそもそも立候補資格を与えない、あるいは立候補のために「愛国の忠誠を誓わせる」「国家安全法支持を表明させる」といった前提条件をつける枠組みを、全人代で審議するものと思われます。そうなれば、「一国二制度」や「高度な自治」の一層の形骸化、私の言葉を用いれば、香港の「北京化」は避けられなくなるでしょう。香港情勢に質的な変化が生じれば、中国経済・マーケットの在り方、特に世界経済とどう融合していくか、グローバルスタンダードをどこまで尊重する用意があるかという意味で、影響は必至です。