全人代で注目すべき8つのポイント

 ここからは、私が今年の全人代で注目している8つのポイントを、上記の(1)、(2)、(3)に留意しつつ、書き下していきたいと思います。

 これらはいずれも、今年、そして今後の中国マーケットの動向や行方を占う上で、非常に重要な指針となってくるものです。

ポイント1: GDP成長率は公表されるか?

 昨年の全人代では、「グローバルに広がる新型コロナと経済貿易情勢をめぐる不確実性が大きく、我が国の発展もいくつかの予測が難しい影響、要素に直面しているから」という理由で、李克強は「報告」でGDP(国内総生産)目標を公表しませんでした。結果的に、2020年は前年比2.3%増とプラス成長を記録しましたが、5月の段階では不確定要素が多すぎたということでしょう。そんな中、無理やり公表して、それを大幅に下回るような結果になれば、中国共産党の正統性という最も重要な要素にヒビが入るだけでなく、マーケットサイドからも、「中国経済は大丈夫なのか?」という疑問を抱かれるでしょう。故に発表を回避したのです。

 今年はどうなるでしょうか?

 私は、2020年12月10日に掲載したレポート「世界経済の勝者は誰か?最重要イベントをめぐる2021年の中国情勢10大予測」にて、次のように予測をしました。

 新型コロナウイルスの感染抑制と経済回復に相当程度成功している現状から判断する限り、2021年の全人代は例年通り3月に開催されるでしょう。私の考えでは、経済成長率目標も80%の確率で公表されるでしょう。20%を保留した理由は、国際社会全体がいまだコロナ禍から立ち直れておらず、特に、欧米先進国における経済状況が不透明かつ不確実で、そこが中国の経済成長に与える影響を予測できないと、当局が考える可能性があるからです。いずれにせよ、3月は注目の月です。そこで経済成長率目標が発表されさえすれば、その数値はマーケットの自信や期待を後押しするものになるでしょう。

 この分析は全人代を直前に控えた現在に至っても変わっていません。発表されない可能性は残っていると考えています。この背景は、中国国内における新型コロナ抑制や経済再生の両立に懸念があるというよりは、やはり欧米を中心とした世界経済情勢から不確実性が拭えないという当局の判断が働いていると考えるからです。

 以前もレポートで言及してきたように、2021年の中国経済は、コロナ禍からのV字回復も見込めることから、8%前後の成長率が予測されています。私自身の分析としては、言うまでもなく、公表されたほうが、中国当局として、経済情勢に自信と掌握(しょうあく)を擁しているということであり、マーケットにとってもプラス要因となるでしょう。

 一方で、公表されなかったとしても、私のようなウオッチャー、そしてマーケットのプレーヤーが立ち往生する必要はないと考えています。現に2020年も、経済成長率目標は未公表でも、プラス成長を達成しました(それを達成する上で取られた政策の是非については議論の余地ありですが、別の機会に譲ります)。

 中国共産党というのは、一つの数字を公表する前に、ありとあらゆる手段を用いて情勢を分析し、確実な手応えと感触を得た上で、初めてそれを公にする傾向があります。理由は、民主主義国家でないが故に、「失敗」が許されないからです。日本でしばしば見られるような、「辞任」をもって責任を取ったという論理が通用しないのです。

 むしろ、結果が出なかったときに世論やマーケットに与える致命的なリスクを回避するために、あえて公表しないという策を取っているのです。