またも、過去の常識が覆された2021年2月の金相場

 現在43歳の筆者は、日本のバブル期をほとんど経験していません。日経平均株価が38,915円の史上最高値をつけた平成元年の1989年12月末はまだ小学生でした。両親が毎年社員旅行で海外に行って、さまざまな珍しいお土産を買ってきたのを覚えているくらいで、日本のバブルの熱狂ぶりを肌で感じたことはありません。

 その筆者が、金融業界に入り、市場分析に関わるレポートを書くなど、情報配信活動を本格的に開始した2007年頃から、社内外でさまざまな方と話をさせていただく機会が増えたことをきっかけに、ある考えが浮かぶようになりました。

 その考えは、近年、確信に変わりつつあります。“市場は、金融関係者の過去の常識と、過去の成功体験でできているのではないか?”という考えです。

 筆者は“価格が正義”というスタンスを取っています。日々、価格の動きをいかに理論建てて説明するか、その説明にどれだけ肉付けできるか、ということに腐心しているのですが、この時、非常に重要なのが、過去の常識や成功体験にとらわれないことです。

 正しい分析に必要なことは、アドラー心理学の「いま、ここ」に強烈なスポットライトをあてるという考え方のように、(過去ではなく)今と向き合うことなのだと、筆者は考えています。

 多くの金融関係者が持つバブル期などの過去の成功体験を持ち合わせていないことは幸か不幸か?と自問自答すれば、その答えは、51対49くらいの僅差で、おそらく“幸”なのだと思っています。

 重要なことは、過去にとらわれず、今をしっかり見ることです。また、誰かに承認されることを目的に、スタンスを崩すことはご法度です。

「嫌われる勇気」の巻末で、著者の岸見氏は、現在の日本では、フロイトやユングの考え方が一般的で、アドラーの考え方はそうでない、その理由は、アドラーの思想の新しさに、時代が追いついていないからだ、としています。

 この点は、市場を含めた社会が、まだ過去を見ながら動いていることを示唆していると、筆者は受け止めています。

 ただし、市場では、過去の常識だけでは説明できない値動きが散見されているのも、事実です。以下のとおり、先月(2021年2月)後半は、“株安・金安”でした。過去の常識で言えば、株が安い時は金(ゴールド)が高いはずです。

図:2021年2月のジャンル横断騰落率ランキング

出所:マーケットスピードⅡなどのデータをもとに筆者作成