国債の買い入れ減額も、ステルス・テーパリングだった

 実は、日本銀行はステルス・テーパリングの達人です。国債の買い入れを徐々に減らしていくテーパリングを、正式に発表することなく始め、マーケットに衝撃を与えずに進めたことが、市場関係者から賞賛されています。

 日銀は、2016年には「保有高が年間80兆円増加するペース」で国債を買い付ける量的金融緩和を実施していました。ところが、マイナス金利の国債をその規模で買い続けると、いずれ日本銀行のバランスシートを痛める懸念もでていました。また、市場で流通する国債を日本銀行がほとんど買い上げてしまうために、市場の流動性が著しく低下し、このペースで買い続けるのは無理であることが明らかでした。

 そこで、日本銀行には、いつ「金融政策の出口(量的緩和の縮小)」を始めるか、質問が集中していました。黒田日本銀行総裁は、その都度、「必要ならば追加緩和を躊躇しない」としか述べていませんでした。もし、テーパリング実施を宣言していたら、その衝撃で「円高が進む」「日本株が下がる」などの副作用が想定されたため、黒田総裁は出口を考えていないことを強調し続けていました。

 ところが、実際には、2017年には長期国債の保有高は58兆円弱しか増えませんでした。2018年以降も、買い付け額をどんどん減らしています。金融政策の事実上の変更を、悟られることなく進めたことが賞賛されています。

 金融政策の変更を何も発表しなかったわけではありません。「80兆円の増加」を「80兆円をメドとする増加」に変更し、さらに長期金利を0%近くに固定する「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を発表したのが、事実上のテーパリング発表だったことになります。

 日銀のステルス・テーパリングと対比されるのが、FRB(連邦準備制度理事会)によるテーパリングです。2013年5月に、当時のバーナンキFRB議長が「将来、テーパリングが必要になる」と発表したため、世界中の株価が暴落する「バーナンキ・ショック」がおこりました。その後、FRBは金融政策として正式に発表した上で、2014年1月にテーパリングを始め、同年10月に終了しました。

 なんでも、市場に発表、市場と対話する姿勢は本来望ましいものの、結果的にバーナンキ・ショックで世界の金融市場を混乱させたことから、市場との対話に失敗したと言われました。市場と対話しているふりをして、結果的には一番重要な情報は秘密のままにしておく日本銀行のやり方が、逆に望ましいとされました。