4:“脱炭素”は進むが、人類が豊かな生活を望む限り、原油消費はすぐにはなくならない

“クリーンエネルギー”や“脱炭素”という響きのよい言葉を毎日のように耳にします。しかし、これら=“オール電化”ではない点に注意が必要です。“脱炭素”が進むため、内燃機関(エンジン)を作っている部品会社は今にも大打撃を受ける、というニュースを目にしましたが、すぐさま大打撃を受けるのでしょうか。

 確かに、“クリーンエネルギー”や“脱炭素”を、“オール電化”と解釈すればそうなりかねません。しかし、現実的には、日本の“脱炭素”社会に活躍するとされる「電動車」は、今のところ「電気自動車(EV)」「燃料電池車(FCV)」「ハイブリッド車(HV)」「プラグインハイブリッド(PHV)」です。

図:2030年代半ば以降も残る「電動車」(日本の場合)

出所:各種資料をもとに筆者作成

 この中で、“クリーンエネルギー”や“脱炭素”にマッチする理想的な“脱炭素車”はどれでしょうか。答えは、風力や地熱、太陽光、バイオマス、波力などの再生可能エネルギー由来の電力で走る「電気自動車(EV)」と、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して作られた水素(グリーン水素)を充填して走る「燃料電池車(FCV)」と言えるでしょう。

 大量の天然ガスや重油を燃やす火力発電由来の電力は“脱炭素”と言えないため、火力発電由来の電力を使って走る「電気自動車(EV)」は理想的な脱炭素車とは言えないでしょう。また、天然ガスの燃焼時などで得られる水素(グレー水素)を充填した燃料電池車(FCV)も、理想的な脱炭素車とは言えないでしょう。グレー水素は、水素生成時に同時に発生する二酸化炭素を大気中に放出しているためです。

 水素は無色透明ですが、どのような過程を経て生成されたかを見分けるため、“色分け”されています。以前のレポート「2021年のプラチナ6大予測:新しい上昇要因で1,300ドル程度まで上昇!?」をご参照ください。

「ハイブリッド車(HV)」と「プラグインハイブリッド(PHV)」は、技術革新により使用するガソリンの量を減らしたり、排出される二酸化炭素や有害物質の量を減らしたりすることはできても、程度を軽減する手段であるため、完全な“脱炭素車”とは言えません。

「電気自動車(EV)」および「燃料電池車(FCV)」で使用する電力や水素といったエネルギー源を、再生可能エネルギー由来とすることが明記されていないこと、そして「ハイブリッド車(HV)」と「プラグインハイブリッド(PHV)」を“脱炭素”に対応する自動車から除外していないことは、一定程度、化石燃料の使用を容認・温存していると言えると思います。

 また、“脱炭素”の議論で、テーマになりやすいのは“自動車”ですが、自動車の燃料だけが、原油の使い道ではありません。そもそも“脱炭素”においては、国や企業、個人にいたるすべての分野で、できるだけ、原油や天然ガスなどの化石燃料を使わない(二酸化炭素を排出させない)ことが理想ですが、理想を追う上で、秩序ある豊かな生活や経済発展を維持することが排除されていません。

 原油を精製すると、さまざまな石油製品が獲得できます。LPガス、ガソリン、灯油、ジェット燃料、軽油、船の燃料、火力発電所の燃料、アスファルトなどの他、化学繊維や塗料、電子製品などのプラスチック部品の原料なども同時に獲得できます。原油からガソリンや軽油といった、自動車の燃料だけを抽出することはできません。

図:原油を精製して獲得できる石油製品

出所:各種資料をもとに筆者作成

 生活必需品である衣類、現代人の必須アイテムである電子部品、市民の生活の場に規則を明示してくれる標識などに使われる塗料などは、今のところ、現代社会になくてはならない存在です。これらを、放棄することは、市民生活の根幹を自ら不安定化させることになりかねません。

 この点より、仮に“脱炭素”が浸透した社会においても、原油の消費量は、一定程度残ると、考えられます。つまり、自動車の燃料であるガソリンや軽油を一滴も使わなくなったとしても、人類が秩序ある豊かな生活や経済発展を望む限り、原油の消費はゼロにはならないと考えられます。