3:株価が上昇すれば、原油価格も上昇せざるを得ない
以前のレポート「“バイデン・ワクチン相場”で見えた、金(ゴールド)と原油の実力」で述べましたが、昨今の市況環境の変化によって、原油相場と株式相場の関わりが、以前と異なる意味で強くなってきていると、筆者は考えています。
お互い、(期待だけで)実態を伴っていなくても上昇したり、株価が上昇する時に、強い下落要因を抱えていても株価の上昇に倣って原油相場が上昇したりするケースが散見されます。
原油価格が下落した場合、世界経済が悪化しているのではないか、産油国が資産を売却するのではないか、などのマイナスの心理が浮上することがあります。原油価格の下落は懸念を生むため、期待や懸念などの思惑で動く傾向がある株式市場の下落要因になり得ます。
株価上昇時に、原油価格が下落すると、景気好転を示唆する株価上昇との整合性がとれない、マイナスの心理が浮上する、など、株式市場の投資家において不都合・不安が生じ、株価のさらなる上昇が阻害されかねません。この意味では、株価上昇時の原油価格の下落は、株式市場に望まれない、と言えます。
図:原油市場と株式市場の関係
このように考えれば、株式市場と原油市場は、ある意味、運命共同体と言えます。この点は、下落要因にさらされていても原油相場が、株高時に上昇することができる理由の一つと考えられます。
いずれの産油国も、産油活動以外で十分な収入を得られるようになること、先進国・新興国問わず、原油をエネルギー源や生活必需品(化学繊維、塗料、プラスチック製品など)として用いなくなること、といった、供給・消費の両サイドで、原油の重要性が、大幅に低下した時(原油が政治的武器にならなくなった時)、ようやく、株式市場と原油市場の結びつきがほどけると、筆者は考えます。逆に、そのような日が到来するまでは、株式市場と原油市場の連動性は保たれると、考えます。
また、NYダウが上昇している意味を深堀すると、“上昇しなければならない事情”が透けて見えてきます。例えば、企業や個人の保有資産の価値が上昇すれば、その企業や個人の投資意欲・購買意欲がかき立てられます。投資や購買活動によって、企業や個人が資金を社会に放出し続けることは、社会基盤を不安定化させない意味で、必要です。
この意味では、株価上昇は、社会基盤が不安定化することを防いでいる、と言えます。株価が上昇していると、景気が上向いている“感覚”になれる点も、心理的な側面から社会基盤が不安定化することを防いでいる、と言えます。社会の安定には、株価の上昇は必要なのです。
仮に実態が伴っていなくても、上昇することは株式市場に課せられた必須命題なのかもしれません。経済が不安定で、本来は上昇が見込めない状況でも、数カ月や数年先の期待を“今”織り込んで(期待を前借してでも)上昇することがあるのは、このためです。
このように考えれば、株式市場は、市民が社会基盤の安定化を願う “信仰の場”という側面を持っていると言えそうです。市民の多くが下落しないことを願ったり、上昇を喜んだりする場、という意味で、です。
2021年は2020年以上に、クリーンエネルギーに注目が集まると考えられます。注目が集まる際、各種ニュースで“原油相場は下落するだろう”などといった見出しが躍るかもしれません。
しかしその時、社会基盤の安定化という使命を背負い株価が上昇していれば、運命共同体ともいえる原油相場はその株価に倣い、上昇している可能性があります。必ずしも“クリーンエネルギーの台頭=原油相場の下落”という展開にならない場合がある点に、留意が必要です。