コロナ前の小売業は、成長産業だった

 小売業は、かつては内需産業でした。人口が減少する日本で、小売業は衰退していくというイメージを持たれていました。

 ところが、実際はその逆でした。コロナ前の2019年度決算では、時価総額上位20社のうち、8割以上が最高益を更新していました。つまり、コロナ前、小売業は明確に成長産業だったのです。

 コロナ前の小売業には、5つの成長ドライバーがありました。コロナ前に最高益を更新していた小売大手には、以下のような特色を持った企業が多いことがわかります。

【1】海外(主にアジア)で成長

 内需株であった小売業が、近年は海外、特にアジアで売上を拡大させています。利益の過半を海外で稼ぐ小売業も出ており、小売業はもはや純粋な内需株とは言えなくなってきました。

 日本で強いビジネスモデルが、そのままアジアで通用するケースが多いと言えます。セブン&アイHD(3382)傘下のセブンイレブンは、米国で高収益をあげていますが、日本の小売業全体で見ると、欧米では苦戦。アジアが成長の源となっています。アジアで、富裕な中間層が育ってきていることが、追い風となっています。

【2】製造小売業として成長

 利益率の低いナショナルブランド品の販売を減らし、自社で開発したプライベート・ブランド品を増やすことで競争力を高め、売上・利益を拡大させてきました。

 自社ブランド品について、商品開発から生産・在庫管理までやることが多く「製造小売業」とも言われます。

 最高益を更新中の専門店(ニトリHDなど)は、消費者のニーズを掘り起こすさまざまな住居関連製品を開発し、売り上げを拡大し続けています。一方、百貨店・家電量販店はナショナルブランド品の販売が多く、この取り組みが遅れています。

【3】ネット販売で成長

 ネット販売が本格成長期を迎えています。MonotaRO(3064)などがネット小売成長企業の代表です。大手スーパーや百貨店でも最近ネット販売を強化する努力を始めています。コロナ禍で、ネット販売は増勢を強めています。

 カジュアル衣料品「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(9983)は、これまで国内および海外の有店舗販売を中心に成長してきましたが、ネット販売を次の成長の柱にする方針を表明しています。

【4】カテゴリーキラー(専門店)として国内でも成長(同業他社を駆逐して成長)

 特定分野に集中することで、その分野で圧倒的な競争力を持ち、総合小売業(百貨店やスーパー)、同業他社から売上を奪って、成長してきました。

 ただし、この分野では近年、カテゴリーキラー同士の競合が激化し、成長が止まる例が増えています。

 紳士服量販店は、1990年代に成長産業でしたが、早くに競合が激化して成長が止まっています。靴小売りのABCマート(2670)、「ユニクロ」を展開するファースリテイリング、家具・住居製品のニトリHDなどが、カテゴリーキラーの代表です。

 手軽に食べられる食品を中心に日用雑貨も展開するコンビニエンスストアも、大手スーパーから売り上げを奪って成長してきたカテゴリーキラーですが、近年、競合激化で成長が止まっています。一方、ドラッグストア、100円ショップなどは、まだ成長が続いています。

【5】インバウンド(訪日外国人観光客の買い物)需要を取り込んで成長

 コロナ前まで、訪日外国人観光客の数の伸びが続き、百貨店や家電量販店などがその恩恵を受けてきました。

 ところが、コロナ禍でインバウンド消費は前年比で99%近く減少。コロナが収束に向かえば国内旅行は回復しそうですが、海外旅行は簡単には回復しそうになく、不振が長期化しそうです。