4-6月の消費は前期比年率▲28.9%、逆風下で二極化する「小売業」
4-6月期GDP(国内総生産)で消費支出が大幅にマイナスになった影響を受け、2020年度上半期の小売・外食業の業績が大きく落ち込んでいます。ただし、そうした逆風下で、売上が大きく伸びて、好調な小売企業もあります。コロナ禍で二極化が鮮明です。
家具・住居製品を展開するニトリHD(9843)は10月2日、2020年3-8月期決算(2021年2月期の中間決算)を発表しました。
連結経常利益は前年同期比43.4%増の810億円と、大幅増益。コロナ禍で在宅勤務・巣ごもり消費が拡大したため、住居製品や在宅勤務用のオフィス家具が好調でした。通期(2021年2月期)経常利益は、前期比22.4%増の1,341億円と、35期連続の増収増益を計画しています。
一方、外食大手すかいらーくHD(3197)の2020年1-6月期決算(2020年12月期の中間決算)は、純利益が▲189億円の赤字でした。外食業は、軒並み赤字です。
高島屋(8233)など百貨店も赤字です。高島屋が12日発表した2020年3-8月期決算(2021年2月期中間決算)は▲232億円の最終赤字でした。これに伴い、同社は、通期(2021年2月期)の純利益見通しを、▲365億円の赤字と発表しました。
同社の説明では、ビジネスの構造変化が進んでおり、今のままでは、来期(2022年2月期)も営業赤字が続くリスクがあるとしています。
ただ、コロナ禍が永遠に続くわけではありません。いつになるかわかりませんが、いつかコロナが収束する時が来るはずです。小売株の投資を考える時、コロナ禍の姿だけでなく、コロナ後を考えて銘柄選択することが必要です。
アフターコロナを考えるために、まず、コロナ前の小売業の姿を簡単にレビューします。
コロナ前の小売業は、成長産業だった
小売業は、かつては内需産業でした。人口が減少する日本で、小売業は衰退していくというイメージを持たれていました。
ところが、実際はその逆でした。コロナ前の2019年度決算では、時価総額上位20社のうち、8割以上が最高益を更新していました。つまり、コロナ前、小売業は明確に成長産業だったのです。
コロナ前の小売業には、5つの成長ドライバーがありました。コロナ前に最高益を更新していた小売大手には、以下のような特色を持った企業が多いことがわかります。
【1】海外(主にアジア)で成長
内需株であった小売業が、近年は海外、特にアジアで売上を拡大させています。利益の過半を海外で稼ぐ小売業も出ており、小売業はもはや純粋な内需株とは言えなくなってきました。
日本で強いビジネスモデルが、そのままアジアで通用するケースが多いと言えます。セブン&アイHD(3382)傘下のセブンイレブンは、米国で高収益をあげていますが、日本の小売業全体で見ると、欧米では苦戦。アジアが成長の源となっています。アジアで、富裕な中間層が育ってきていることが、追い風となっています。
【2】製造小売業として成長
利益率の低いナショナルブランド品の販売を減らし、自社で開発したプライベート・ブランド品を増やすことで競争力を高め、売上・利益を拡大させてきました。
自社ブランド品について、商品開発から生産・在庫管理までやることが多く「製造小売業」とも言われます。
最高益を更新中の専門店(ニトリHDなど)は、消費者のニーズを掘り起こすさまざまな住居関連製品を開発し、売り上げを拡大し続けています。一方、百貨店・家電量販店はナショナルブランド品の販売が多く、この取り組みが遅れています。
【3】ネット販売で成長
ネット販売が本格成長期を迎えています。MonotaRO(3064)などがネット小売成長企業の代表です。大手スーパーや百貨店でも最近ネット販売を強化する努力を始めています。コロナ禍で、ネット販売は増勢を強めています。
カジュアル衣料品「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(9983)は、これまで国内および海外の有店舗販売を中心に成長してきましたが、ネット販売を次の成長の柱にする方針を表明しています。
【4】カテゴリーキラー(専門店)として国内でも成長(同業他社を駆逐して成長)
特定分野に集中することで、その分野で圧倒的な競争力を持ち、総合小売業(百貨店やスーパー)、同業他社から売上を奪って、成長してきました。
ただし、この分野では近年、カテゴリーキラー同士の競合が激化し、成長が止まる例が増えています。
紳士服量販店は、1990年代に成長産業でしたが、早くに競合が激化して成長が止まっています。靴小売りのABCマート(2670)、「ユニクロ」を展開するファースリテイリング、家具・住居製品のニトリHDなどが、カテゴリーキラーの代表です。
手軽に食べられる食品を中心に日用雑貨も展開するコンビニエンスストアも、大手スーパーから売り上げを奪って成長してきたカテゴリーキラーですが、近年、競合激化で成長が止まっています。一方、ドラッグストア、100円ショップなどは、まだ成長が続いています。
【5】インバウンド(訪日外国人観光客の買い物)需要を取り込んで成長
コロナ前まで、訪日外国人観光客の数の伸びが続き、百貨店や家電量販店などがその恩恵を受けてきました。
ところが、コロナ禍でインバウンド消費は前年比で99%近く減少。コロナが収束に向かえば国内旅行は回復しそうですが、海外旅行は簡単には回復しそうになく、不振が長期化しそうです。
コロナ禍での好調企業
コロナ禍で業績を拡大させている企業群があります。2つのカテゴリーに分かれます。生活密着産業・巣ごもり消費関連と、ネット関連です。
【1】生活密着産業・巣ごもり消費関連
食品スーパー、100円ショップ、ドラッグストア、住居製品などです。
【2】ネット関連
すべての小売業で、ネット販売が好調です。
リアル店舗で言うと、都市部の店舗が不振で、郊外店が好調です。電車で買い物に行く人が多い、都市部の直結店舗は、不振です。
一方、自動車で買い物に行く郊外店が好調です。コロナ感染を避けるために、電車を避け、自動車で買い物に行く人が増えていると考えられます。
また、コロナ前、都市部の店舗にはインバウンド消費が入っているところもありました。郊外店は、あまりインバウンド消費が取れていませんでした。インバウンドが大きく落ち込む影響は、都市部の店舗で大きくなっています。
家電量販店は、在宅勤務の増加で、比較的好調ですが、都市部の大型店が多いビックカメラ(3048)は苦戦しました。郊外店の多いノジマ(7419)は好調です。
コロナ後を見据えた投資戦略
小売業の成長ドライバーが、コロナ前、ウィズコロナ、コロナ後でどう変わっていくか、私の考えを示したのが、以下です。
小売業の成長ドライバー:コロナ前・ウィズコロナ・コロナ後の評価
コロナ禍で、海外・インバウンドは大きなダメージを受けています。一方、ネットは好調。製造小売業・カテゴリーキラーは、二極化しています。国内では、先に述べたように二極化が起こっています。
それでは、コロナ後はどうなるでしょう。海外・製造小売業・ネットの成長が復活し、再び、小売業は成長産業に戻ると思っています。
ただし、国内カテゴリーキラーの成長はだんだん止まってくる可能性があります。国内だけでは、だんだん過当競争になってくるからです。
インバウンドは、簡単には復活しないでしょう。コロナが収束するにつれ、日本人の国内旅行は回復すると考えますが、海外旅行は、インバウンド(海外→国内)・アウトバウンド(国内→海外)とも回復が遅れると思います。
インバウンド消費の質の変化も、小売業に逆風となります。初めて日本に来る主にアジアの観光客は、たくさん買い物をしますが、リピーターになるにつれ、モノは買わなくなります。モノよりも、コト消費(日本での体験・サービス消費)に重点が移っていくと考えられます。
結論ですが、コロナ後を見据えた小売業の銘柄選択として、海外・製造業小売業・ネット販売が成長のキーワードとなる状況は変わらないと考えます。
国内では、高額品を売る小売業(百貨店など)は苦戦が続き、生活密着産業が、相対的に健闘する状況が続くと考えます。
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