米国市場は最悪シナリオ(カオス=混沌)に直面するのか
参考情報として、第2次大戦後に現職の大統領が再選に失敗した年(1976年、1980年、1992年)における米国株式(S&P500指数)の動きを平均化した推移(年初=100)を図表4に示しました。傾向として、9月から11月初めの選挙まで株式市場が神経質な動きを強いられ、10月に波乱含みとなったケースもありました。
そして、選挙の直前や直後の「イベント消化」を契機に株式市場が「年末高」に向け上昇した平均的傾向もみられます。いずれにせよ、3つのケースで「現職大統領の再選失敗」が秋相場の上値を抑えた経緯がわかります。
ただ、「バイデン当選を過度に悲観視するべきでない」(欧州系投資銀行)との見方もあります。ゴールドマン・サックス・グループ前CEOのロイド・ブランクファイン氏は30日、「株式市場は大統領選で民主党候補のバイデン前副大統領が勝利するという見通しに対してそれほど動揺していない」、「恐らく市場参加者は、不快さや枯れた地球よりも、増税や規制強化の方が自分たちの株式や確定拠出型年金(401k)に良いと考えている」とツイートして注目されました。
<図表4>「大統領の再選失敗」に向け相場波乱はあるか
「トランプ再選」や「バイデン当選」の他に、潜在的なリスクとして「勝敗が決定しない(当選者が決まらない)」事態が警戒され始めています。選挙当日にバイデン氏がトランプ氏に大差で勝利できない場合、トランプ氏が一方的に「勝利」を宣言。郵便投票の開票結果で劣勢となっても、「郵便投票は不正が多く信用できない」と主張して敗北を認めない可能性が指摘されています。かつては落選確実となった候補者が当選確実となった候補者に電話して「敗北」を認める潔さが大統領選挙の常識でした。
ただ、トランプ氏自身が「常識的ではない」とみなされていることに留意するべきでしょう。トランプ氏について「大統領を退任した場合は納税問題で法的リスクに晒される可能性が高い」との指摘があります。NYタイムズ紙が入手したトランプ氏の納税申告書にもとづく分析によると、IRS(内国歳入庁)の監査次第では、(現職大統領としての免責特権を失った後に)多額の制裁金を科せられ、法律違反が故意と判断された場合は刑事訴追の可能性も指摘されています。
トランプ氏は「負けられない選挙」を強いられており、選挙結果次第では「敗北を認めない=政治が大混乱する=株式市場が不安定化する」とのカオス(混沌)に直面する可能性も否定できません。結果としてこうした事態が向かう「司法判断」に備え、トランプ大統領が最高裁判事の空席に共和党寄りで保守派のエイミー・バレット氏の任命・承認を急いでいるとの説が有力です。トランプ大統領は25日、選挙で敗北した場合に「平和的な政権移譲を約束するか」との質問に「何が起きるか見る必要がある」と答え確約を避けました。その真意と言動を巡る不透明感で、当面も株式市場の行方を楽観視できない状況が続きそうです。
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