【疑うべき運用常識6】運用商品の選択にあっては、市場見通しと運用巧拙の評価が大事だ

 アセットアロケーションに於いて同じカテゴリーの運用商品(たとえば「国内株式」に投資する商品)を比較する際に最も重要なのは「実質的な手数料」の大小だ。同一カテゴリーの商品の場合、市場全体のリターンは共通だし、運用の巧拙は事前には評価できないので、投資家の側で改善できる差は手数料だけになる。

 運用商品を評価・選択する場合に、市場全体に対する予想やまして運用の巧拙に対する事前の評価を、実質的な手数料と「混ぜて」評価しないことが重要だ。

 同一カテゴリーの他の商品よりも手数料の高い商品は、それだけで投資対象から除外できる。ファンドマネジャーをやっていると気付きたくない話だが、金融論的に、これは真理だ。

 運用の巧拙の事前評価のような、本来投資家には不可能な要素を運用商品の選択に反映させようという考え方は適切ではない。尚、運用の巧拙の事前評価は、専門家にも不可能であり、可能だと称する人は怪しむべきだ。

【疑うべき運用常識7】投資家のタイプによって、適切な運用の内容が異なる

 どのような投資家も、自分にとって適切なリスクテイクの金額が異なるとしても、リスク当たりのリターンが最も効率的なリスク資産投資(おそらくは複数のリスク資産への投資の組み合わせ)を好むはずだ。初心者でも、ベテランでも、若い人でも、高齢者であっても、リスクに対する態度に違いがあっても、それは同じであるべきだ。

 違いは、運用資金の規模やリスクに対する態度の違いによる、リスク資産への投資額の大小であって、リスク資産に投資する際の商品選択ではない。

「個人資産運用の一般理論」完成に向けて

 本稿で取り上げた諸前提への「疑い」が正しいとすると、個人投資家にあって、リスク資産への投資額は異なるとしても、投資の内容は基本的に同じものになる可能性が大きい。

「個人資産運用の一般理論」の大雑把な完成形は、概念的にも、現実にも、案外近い場所にありそうに思われる。理論の完成のためには、金融・運用ビジネスの慣行や影響を合理的に疑うことが、引き続き重要であるように思われる。

【コメント】
 2016年の記事だが、内容は現在も変更の必要性を感じない。近年は、お金の3つの自由として、(1)使途の自由、(2)大きさの自由、(3)形の自由、を説明して、お金の運用方法が誰にとっても共通単一でいいことを説明する場合が多い。個人ごとの運用の差は、運用金額とリスクを取る大きさの差だけでいい。
「人のタイプ」によって適切な運用方法や運用商品が異なるとのイメージは金融・運用業界が手数料の高い商品を売るために流しているフィクションである。また、米国で流行りの「ゴールベース・アプローチ」は顧客につきまといながらする人生相談の対価を金融商品の手数料から巻き上げようとする(悪質な!)「営業手法」に過ぎない。(2020年9月27日 山崎元)