【疑うべき運用常識5】運用計画の「期間」は、資金を運用する期間によって異なる

 資産運用の計画を立てる単位となる期間を決定するものは、負債の時間的長さや運用期間によるのではなく、運用するポートフォリオに可能な変化のスピードによるべきである。これを決定するものは、主に取引のコストと環境の変化のスピードである。

 たとえば、長期の年金資金の運用であっても、取引コストがゼロであるなら(実際にはあり得ないが)、運用計画の期間は、極端な話、一日でもいい。

 現実には、個人の場合、毎日運用内容を検討し調整するのは面倒だし、小さくても取引コストが掛かるとすると、これを年率化した時のコストの影響は大きいので、運用計画を作る時間的な単位は、現実的には一年程度になる場合が多いだろう。

 巨額の年金積立金のような資金の場合、売買が取引価格に与える影響(マーケット・インパクト)が大きいので、ポートフォリオの調整には、一年単位よりはもう少し長い期間が必要な場合があるかも知れないが、数年あれば、相当な規模の調整が可能である。

 年金の将来の支払い義務のような運用に伴う資金の負債(ライアビリティ)は、資産と共に時価評価し、資産と負債の評価額の差に注目すればいい。

 負債の期間が長いからといって、資産側の運用計画の期間を長くしようとするのは、間違いだ。

 ちなみに、筆者がこの点に気付いたのは、二十数年前にコンピューターを使って、いわゆるクオンツ運用のシミュレーションをしていた時のことだ。ある種の運用では、手数料コストを小さく設定して、頻繁にリバランスを行うと、計算上高いリターンが得られるが、現実に必要な売買コストを仮定すると、なかなか上手く行かないことが多かった。そして、売買コストの大小によって、最適なリバランスの間隔は変化した。これが、筆者にとって、「運用資金の長さ」が「運用計画の長さ」を決めるのではないと気付いた直接の切っ掛けだった。

 ちなみに、運用における負債側の考慮については、負債のキャッシュフローの時価評価を反映すれば、その影響を考慮することができる。

 多くの個人投資家にとって、売買金額当たりのコストの影響は似たようなものなので、運用計画を考える時間単位は似たようなものだろう。この点の共通化が成立すると、「個人資産運用の一般理論」はぐっと実現に近づく。