※本記事は2019年10月14日に公開したものです。

良い投資ストーリーと良い会社

 最初に皆さんに理解してほしい点は、良い投資ストーリーは星の数ほどあるけれど、良い会社はごく一握りだけであり、そのメンバーは毎回コロコロ入れ替わったりしないということです。

 良い投資ストーリーとは、投資家がそれを聞いてワクワクさせられるようなシナリオを指します。投資テーマと言い換えても良いかもしれません。EV(電気自動車)、クラウド・コンピューティング、シェール開発、ウエアラブル、3Dプリンティング、バイオテクノロジーなどは、すべて良い投資ストーリーの例です。

 実際のところ、証券会社はある企業の株をIPO(新規株式公開)するに際して、魅力ある投資ストーリーが描けるかどうか、アイデアを練ります。

 言い換えれば、IPOに良い投資ストーリーは必須なのです。

 つまりIPOの数だけ良い投資ストーリーが存在するというふうにも考えることができるのです。2019年の1月から8月までに米国だけで107社のIPOがあったわけですから、その数だけ良い投資ストーリーが存在したことになります。

 すると年率換算して160個に近い良い投資ストーリーが作られるわけですから、これはもう良い投資ストーリーの大盤振る舞い、いや粗製濫造(そせいらんぞう)です。

 でも良い投資ストーリーがあるだけでは、その投資は成功するとは限りません。

 せっかくシナリオが良くても、そのビジネス・プランをきっちり実行に移せる企業は、本当に少ないのです。これはベンチャーの世界で、新しいビジネスのアイデアを思いつくのは簡単だけど、それを軌道に乗せることができる起業家は、ほんの一握りしかいないのと酷似しています。

 たいていの投資家は良い投資ストーリーを聞いた時点で、それに完全に魅せられてしまって、批判的精神を忘れてしまいます。その企業が、目標の実現に向かって着実に前進しているかどうか、チェックすることを怠るわけです。株式投資で、死屍累々(ししるいるい)たる犠牲者が出るのは、まさしくこの瞬間です。

 企業は良いストーリーに基づきIPOすることで、スタート地点に立つわけであって、そこがゴールではありません。これから先、長い闘いが控えているのです。

 しかし投資家は、その企業が無事にIPOした時点で、あたかもバラ色の未来がもう実現してしまったかのような気分になるわけです。