過去と決別した米国

 このポンペオ国務長官の演説は、2018年10月のペンス米副大統領の対中政策演説にも対比されるべきものと言えます。ペンス演説が米中新冷戦の「号砲」だとすれば、ポンペオ演説は歴代政権の政策転換を明言し、米中新冷戦の標的を「中国共産党とそのイデオロギー」と定め、自由主義諸国に対して対中包囲網を提唱した内容でした。

 ポンペオ氏は歴代政権の政策を否定し、政策転換を明言した場所に米カリフォルニア州ヨーバリンダを選びました。米中国交樹立に道を開いたニクソン元大統領の出身地です。そして演説会場はニクソン大統領図書館・博物館でした。ニクソン政権以来の政策転換を発信する会場としてこの場所を選び、米国は過去と決別したと全世界に強烈なメッセージを送ることを狙ったようです。

米中貿易戦争激化の重要なシグナルだった2018年のペンス演説

 2018年のペンス演説は、その後の米中貿易戦争激化の重要なシグナルとなりました。

 ペンス演説後、その年の年末にかけてS&P500種株価指数は、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げの影響も大きかったとはいえ、約17%の大幅な下落を見せました。

 ペンス演説によって始まった米中貿易戦争は、米中とも通商協議合意という同じゴールを目指していたため期限が意識されましたが、今回はどちらかが覇権を掌握するまでという期限が明示できない戦いとなりそうです。

 ペンス演説後の下落した株価は、2019年12月の米中通商協議の部分合意によって下落幅以上に回復しましたが、今回は市場にとっては長期間の重しとなることが予想されます。

 短期的には、米大統領選挙まで100日を切ってきたことから、8月、9月頃に、違法と断じた南シナ海や香港の次として警戒されている台湾海峡で軍事的に緊張する事態が起こるシナリオも想定しておいた方がよいかもしれません。