レバレッジが使えない場合は?

 前記の説明で済むと、この話は簡単なのだが、現実はもう少し複雑だ。

 例えば、Qさんは健康で安定した職に就いて、今後収入の増加が予想できるので、現在確定拠出年金で運用している金額よりも、もっと大きなリスクを取っていいと思っているとしたらどうだろうか。大いにあり得る状況だ。

 そもそも、そう思っているのでなければ、この質問自体が生じなかっただろう。

 実は、証券市場線の世界は、ある元本額を前提として、資金の借り入れと運用が共にリスクフリー金利で行える「レバレッジが自由」の世界なのだ。

 この世界を前提とすると、Qさんは、住宅ローンを期前返済した上で、好きな金額まで借り入れてインデックスファンドを買うことができる。期前返済も2,000万円だけではなくて、3,000万円全額を返済することさえ可能だ。

 リスクフリー金利を0%だと考えると、1%の金利のローンが0%で借り換えられるわけで素晴らしい裁定機会だ。

 だが、現実の世界では、個人が低金利でかつ使途自由の借金を利用することが難しい。住宅ローンは、相対的にまだしもリーズナブルな条件で借りられる借金だ。

 そう考えると、仮にQさんがリスクテイクに積極的なら、「2,000万円を1%の金利で借りてインデックスファンドに投資できる」機会だと現状を捉えて、ローンをそのままにして、インデックスファンドに投資する選択が十分あり得る。

 前提条件によればQさんの人的資本は潤沢であり、運用でリスクを取ることは十分可能だろうし、まして、現在の個人バランスシートは2,500万円の資産超過になるので、例えば現在の確定拠出年金の投資分と合わせて、2,500万円のインデックスファンド投資を行うという意思決定は十分あり得る。

 ただし、この場合に追加で行う2,000万円のインデックスファンド投資は、「リスクフリーの1%運用」を放棄して行うのだから、インデックスファンドの運用管理費用が0.2%だとして、実質的には「1.2%の運用管理費用のインデックスファンド」に投資するのと同じ損得勘定だということになる。これは少し悔しいかもしれない。