為替DI:ドル/円に天井感?投資家は「円高」を期待

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 

「7月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 6月末に楽天証券が実施した相場アンケートでは、回答いただいた4,951人の個人投資家の約41%(2,045人)が、7月のドル/円は「ドル安/円高に動く」と考えていることが分かりました。

「動かない(分からない)」は約41%(2,021人)で、「円高」と同率首位。「円安に動く」と考える人は最も少なく、約18%(885人)しかいませんでした。

 DI(円安見通しと円高見通しの差)は▲23.43で 4カ月連続のマイナス。マイナス幅は先月(▲7.28)より拡大しています。ドル/円が107円台で安定しているなかでも、個人投資家の見通しは円高に向かって強まっているようです。

 世界の投資家を悩ませている最大の「謎」。それは最悪の経済ファンダメンタルズに対して、なぜ株価が史上最高値かあるいはそれに近い水準で取引されているのかということです。

 新型コロナウイルス感染流行によって、世界経済は数百年ぶりとはいわないまでも、この数十年間で最も急激かつ深刻な同時不況に陥りました。にもかかわらずNY株式市場は四半期では21年ぶりの大幅上昇を記録しているのです。

 実態経済と金融市場のかい離が広がるなかで、今月2日に発表された米国の6月雇用統計では、NFP(雇用者)の増加数が予想を大きく上回る480万人。失業率は11.1%に低下して2カ月連続の大幅改善となりました。

 この予想外ともいえる6月雇用統計の強さはしかし、実態経済(の悪さ)と株高のギャップを説明する材料になってくれました。米国の労働市場が、驚異的なスピードで回復していくという予想に立って考えるなら、米国株価の上昇は正当化されるという理由になったのです。

 世界株高の原動力は、世界の主要中央銀行と中央政府による金融・財政支援であることは確かです。FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、「予測できる将来にわたって、FRBは超低金利政策を継続する」と言明しています。株を買うことは合理的な投資判断だと中央銀行のお墨付きをいただいているようなものです。

 しかし、この未曽有の景気刺激策が永遠に続くわけがない。先週の米雇用統計があまりに強い数字だったせいで、景気刺激策が意外に早く終了するのではないかという、「ぜいたくな不安」が頭をもたげています。もしそうなれば、金融市場の動きが逆回転するおそれが高まるわけで、実態経済が株価に近づくよりも先に、株価が実態経済に近づくことになるでしょう。

 トランプ米大統領にとってもこれは頭の痛い問題で、扱いを一歩間違えると支持を失い再選に赤信号が灯ってしまう。雇用者がこのまま新型コロナ前の水準近くまで回復できたら、大きな得点になることは間違いないでしょうが、雇用市場が回復するほど新たな景気刺激策の必要性は薄れ、株式市場が下落するリスクもまた高まるのです。

 6月のユーロ/円の終値は120.86円。5月の終値に比べて1.12円のユーロ高/円安でした。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 

 6月末に楽天証券が投資家を対象に実施した相場アンケート調査によると、回答頂いた4,951人のうち、約33%(1,663人)が、7月のユーロ/円は「ユーロ安/円高に動く」と考えていることが分かりました。

 一方で「ユーロ高/円安に動く」は最も少ない約17%(829人)。「動かない(分からない)」は、約50%(2,459人)でした。

 

 ユーロ/円のDI(円安見通しから円高見通しを引いたもの)は▲16.85で4カ月連続のマイナス。マイナス幅は先月(▲17.73)に比べ0.9ポイント低くなりました。FX市場ではユーロに新しいトレンドが始まったと話題になっています。しかしアンケート結果の限り、日本の個人投資家は大きな流れに発展するはずがないと考えているようです。

 6月の豪ドル/円の終値は74.58円。5月の終値に比べて2.70円の豪ドル高/円安でした。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成
 

 楽天証券が6月末に投資家を対象に実施した相場アンケート調査によると、回答頂いた4,951人のうち、約29%(1,440人)が、7月の豪ドル/円は「豪ドル安/円高に動く」と考えていることが分かりました。

 一方「豪ドル高/円安に動く」は最も少ない約17%(851人)。「動かない(分からない)」は約54%(2,660人)で半数を超えています。

 豪ドル/円のDI(円安見通しから円高見通しを引いたもの)は▲11.90で4ヵ月連続のマイナス。マイナス幅は先月(▲10.82)から1.1ポイント拡大。

 ちなみに豪ドル/円は3月の終値から比べると8.50円以上も「豪ドル高/円安」に動いています。にもかかわらず半数以上の投資家が、その期間ずっと豪ドル/円に対して「動かない」という見通しを維持しているのは興味深いことです。