苦しい立場のトランプ大統領

 米国ミネソタ州で起きた白人警官による黒人暴行死事件に対する抗議行動が続いていますが、終息する気配はありません。全米で抗議デモが拡大する最中、12日には、ジョージア州アトランタで警官による黒人射殺事件が起こったことから警察に対する不信はさらに高まっています。

 この抗議デモが、このまま拡大し、長引けば、経済活動再開の大きな足かせとなるだけでなく、人々が密集することによる感染拡大が懸念されます。経済活動再開によって感染者が増えている自治体もあり、新型コロナウイルス感染拡大第2波の波を大きくする可能性も想定されます。

 また、11月の米大統領選挙に影響してくる可能性があるという観点からもこの抗議デモをみていく必要があります。

 2016年の米大統領選挙の激戦州は、ミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシン、フロリダ、オハイオ、アリゾナの6州でした。この激戦6州で黒人の投票率が5ポイント上昇すれば、3州(ミシガン、ペンシルバニア、フロリダ)で逆転するという試算があります。特にミシガン州では2016年のトランプ氏が獲得した得票差は1万1,000票の僅差であり、これはミネソタ州での投票率が1ポイント動けば並び、2ポイント動けば逆転するということになります。

 このように黒人の投票率が米大統領選挙を左右する可能性がありますが、2016年の大統領選挙では黒人の投票率は過去20年で初めて減少しました。しかし、抗議デモをきっかけに今回の選挙で投票率が上がれば、トランプ米大統領にとってはかなり不利な状況になるかもしれません。さらに、抗議デモには白人も加わっており、白人層の一部も離反するとなるとかなり不利な状況になりそうです。

 新型コロナウイルス感染者の拡大も懸念材料です。直近1週間で新規感染が増えた21州のうち、14州は2016年の大統領選挙で共和党が勝利した州です。経済活動の再開を先行した州もこれらの州であり、裏目に出てきている状況となっています。

 景気後退と黒人票離反という国内問題で、ますます苦しい立場に追い込まれていくトランプ大統領の予想外の行動を警戒する必要もますます高まってきそうです。