しばらく円安地合いは望めないかも?
あっけないドル/円の失速でした。6月5日(金)の米雇用統計発表後に109円台後半まで上昇したドル/円は、11日には106円台半ばまで下落しました。円安の先導役だったユーロ/円も、5日の124円台半ばから11日には120円台半ばまで下落しました。ドル/円もクロス円も一気に買いエネルギーを噴出しただけに、しばらく円安地合いは望めないかもしれません。
ドル/円の円高へのきっかけは、6月9~10日のFOMC(米連邦公開市場委員会)を控えてYCC(イールド・カーブ・コントロール:長期金利操作)が導入されるとの見方が浮上し、金利が下がりドル安となったことです。しかし、FOMCではYCCは導入されず、今後の議論とするとのことでした。
また、金利見通しではFOMC参加者17人のうち、15人が2022年末までゼロ金利が維持されるとの見通しとなりました。この金利見通しは発表当日には好感され、株安もドル安も限定的でしたが、世界の株式市場をグルっと回ってきたら、景気回復がそれまで望めないとの悲観的な見方が広がり、また、米国21州で経済再活動後に感染者数が増加したことから第2波の警戒心が高まったため、翌11日のNYダウ平均株価が1,861ドルの急落となりました。過去4番目の下げ幅を受けて、ユーロ/円は急落し、ドル/円も106円台半ばに下落しました。
ドル/円は、月初めの円安が失速したことから、再び106~108円のレンジに入った模様です。
今後、現実に引き戻される経済指標の発表や感染第2波への懸念が高まれば、再び株価急落となり、ドル/円も円高の水準を下げる可能性も想定されるため、下方リスクは常に警戒する必要がありそうです。
FRB(米連邦準備理事会)は、その後15日にSMCCF(セカンダリーマーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティー)を通じて、個別企業の社債の買い入れを始めると発表しました。この発表を株式市場は好感しました。「何が何でも支える」というFRBの強い意志は、市場参加者に守護神としての安心感をもたらしており、このことが株高のプラス材料となっています。一方で、FRBは2022年末までゼロ金利維持や米景気の先行き不透明感を強調するなど景気に対しては慎重姿勢を示しています。
パウエルFRB議長は16日の議会証言でも「景気回復の時期や勢いについては著しい不確実性がある。新型コロナウイルスが封じ込められたと国民が確信できない限り完全な回復はない」と述べるとともに、だからこそ「経済が回復軌道に乗ったと確信できるまでゼロ金利政策を続け、あらゆる手段を動員して経済を支えていく」との見解を改めて示しました。
しかし、市場参加者はFRBのこのスタンスを一つの流れでなく、別々にかつ両極端の反応をしています。V字回復を期待させるような良い経済指標が発表されれば、株式市場はFRBの守護神としての安心感を追い風として捉えますが、悪い経済指標や感染拡大が続けば、FRBの先行きの景気に対する慎重姿勢を逆風として捉える傾向が続きそうです。
苦しい立場のトランプ大統領
米国ミネソタ州で起きた白人警官による黒人暴行死事件に対する抗議行動が続いていますが、終息する気配はありません。全米で抗議デモが拡大する最中、12日には、ジョージア州アトランタで警官による黒人射殺事件が起こったことから警察に対する不信はさらに高まっています。
この抗議デモが、このまま拡大し、長引けば、経済活動再開の大きな足かせとなるだけでなく、人々が密集することによる感染拡大が懸念されます。経済活動再開によって感染者が増えている自治体もあり、新型コロナウイルス感染拡大第2波の波を大きくする可能性も想定されます。
また、11月の米大統領選挙に影響してくる可能性があるという観点からもこの抗議デモをみていく必要があります。
2016年の米大統領選挙の激戦州は、ミシガン、ペンシルバニア、ウィスコンシン、フロリダ、オハイオ、アリゾナの6州でした。この激戦6州で黒人の投票率が5ポイント上昇すれば、3州(ミシガン、ペンシルバニア、フロリダ)で逆転するという試算があります。特にミシガン州では2016年のトランプ氏が獲得した得票差は1万1,000票の僅差であり、これはミネソタ州での投票率が1ポイント動けば並び、2ポイント動けば逆転するということになります。
このように黒人の投票率が米大統領選挙を左右する可能性がありますが、2016年の大統領選挙では黒人の投票率は過去20年で初めて減少しました。しかし、抗議デモをきっかけに今回の選挙で投票率が上がれば、トランプ米大統領にとってはかなり不利な状況になるかもしれません。さらに、抗議デモには白人も加わっており、白人層の一部も離反するとなるとかなり不利な状況になりそうです。
新型コロナウイルス感染者の拡大も懸念材料です。直近1週間で新規感染が増えた21州のうち、14州は2016年の大統領選挙で共和党が勝利した州です。経済活動の再開を先行した州もこれらの州であり、裏目に出てきている状況となっています。
景気後退と黒人票離反という国内問題で、ますます苦しい立場に追い込まれていくトランプ大統領の予想外の行動を警戒する必要もますます高まってきそうです。
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