為替DI:新型コロナ相場、投資家のドル/円見通しは?

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「5月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」

 4月末に楽天証券が実施したアンケートに回答頂いた4,240人の投資家のうち約36%(1,521人)が、「円高に動く」と考えていることが分かりました。

 一方「円安に動く」と考える投資家の割合は最も少ない約23%(993人)。最も多かったのは「動かない(分からない)」の約41%(1,726人)でした。

 DI(円安見通しと円高見通しの差)は▲12.45。2カ月連続のマイナスですが、マイナス幅は先月(▲28.53)の半分以下に縮小しました。

 新型コロナによって投資行動は後ろ向きになり、4月の相場は「リスクオフ」一辺倒になりました。リスクオフの時には「ドル売り/円買い」に動くというのがこれまでのパターンでしたが、新型コロナによって相関関係は消えました。世界の主要都市がロックダウンされるなかで、株で食料品は買えないとドル需要が急速に高まる「有事のドル買い」が起きたため、リスクオフが「ドル買い/円売り」になるという動きに変わったのです。5月のドル/円相場を読むことのできない投資家が4割もいるのはこのような理由からでしょう。

 BLS(米労働省労働統計局)が5月8日に発表した雇用統計によると、4月の非農業部門雇用者数は2,050万人減少しました。減少幅は戦後最大で、2011 年2月以来の低水準です。また失業率は、月間の上昇率としては過去最大となる10.3ポイント上昇して14.7%に。雇用統計の大幅な悪化は、新型コロナウイルスの世界的流行の影響とそれを封じ込めようとする努力を反映した結果であると米労働省労働統計局は説明しています。減少幅の大きさはもちろんですが、そのスピードの速さに驚かされます。半世紀ぶりの低失業率を謳歌していた米国が、ほんの数カ月間で米国人の5人に1人が職を失ってしまうことになったのです。

 米国の雇用はすべての主要産業部門で大幅に減少しています。特にレジャーとサービス業での減少が目立ちました。厳しい移動制限によって旅行や観光をする人がほぼ皆無になった結果、ボーイング社は10%の人員カットを計画。航空機産業が持つ広いすそ野産業(完成品を製造する企業に必要な部品や資材を供給する業者)への波及が懸念されています。

 大企業ばかりではなくギグエコノミーにも影響がでています。民泊仲介サイト世界大手の米Airbnb(エアビーアンドビー)は、全世界約7,500人の従業員のうち、25%の人員を削減すると発表。宿泊客がゼロになりAirbnbのホストが破産するというケースもでています。それでもまだ、実際のデータはもっと悪いといわれています。「本当の失業率は23~24%と考えている」と、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁は述べています。

 一方で、4月平均労働賃金は、前月比4.7%、前年比7.9%アップと大幅上昇。低賃金労働者が新型コロナの影響で大量に解雇されているせいで、単純に喜ぶわけにはいきません。

 しかし、米雇用統計が発表された後のマーケットは冷静でした。なぜなら、数字が大幅悪化することは、市場参加者でなくても皆知っていたからです(まさか失業率が4%に下がると考えていた人はいないでしょう)。マーケットの焦点は、雇用統計がどれだけ「悪くなった」かよりも、どれだけ「早く」新型コロナから回復するか、つまり深さから長さへと移っています。

 4月の非農業部門雇用者数は2,050万人減少、失業率は14.7%という結果は、事前予想(2,100万人減少、16.0%)よりは「良かった」。4月最終週の失業保険の申請件数は316万件で、その前の週385万より減っています。実際、新規の失業保険申請件数は4週連続で減少して、雇用市場はすでに底を打ったという希望の兆しも見え始めています。

 失業が経済に与えるダメージとは、需要ショックがそれだけ長引くリスクがあるということです。経済再起動に向けて動きだすためには、企業や消費者は経済成長を支える状態になっていなくてはいけない。失業率は企業や消費者の準備率を示しているともいえます。低くなるほど、経済再開に向けて準備が整っているといえます。

 そのため米政府やFRB(米連邦準備制度理事会)は、積極的な対策を打ち出しました。全国民を対象に現金給付を実施したほかに、外出禁止で働くことのできない労働者には、有給休暇という形で、1日当たり200ドル未満、または累計で1万ドルを上限に、10週間は3分の2の報酬をもらえる「Emergency Family and Medical Leave Expansion Act (EFMLEA)」、あるいは、1日当たり511ドル未満、または合計で5,110ドル未満を2週間もらえる「Emergency Paid Sick Leave Act(EPSLA)」を選択できるようにしました。さらに失業者に対しては、失業保険を週当たり600ドル、13週間までもらえるよう延長した法律もあります。

 ところが、米国の失業給付金の規模が、かえって経済の再起動を困難にするかもしれないという新たな問題を生み出しています。州と連邦政府の給付金を合わせると、解雇された労働者に支払われる平均週額は、昨年末に労働局が発表した平均377.97ドルから978ドルに上昇します。これは多くの低賃金労働者が稼ぐ給料よりも多くなり、仕事に戻ることに消極的になる人が増えるおそれがあるというのです。国民を早く仕事に戻すには、手厚い対策をしてはだめだ、せいぜい布マスク2枚と10万円にしておこうというのが日本政府の戦略かもしれません。

 4月のユーロ/円の終値は117.39円。3月の終値に比べて1.26円のユーロ安/円高でした。

 4月末に楽天証券が投資家を対象に実施した相場アンケート調査の結果によると、回答者4,240人のうち、約38%(1,625人)が、5月のユーロ/円は「ユーロ安/円高に動く」と考えていることが分かりました。

 一方で「ユーロ高/円安に動く」は最も少なく約16%(662人)でした。「動かない(分からない)」は、約46%(1,953人)。

 ユーロ/円のDI(円安見通しから円高見通しを引いたもの)は▲22.71。2カ月連続のマイナスとなりましたが、マイナス幅は先月(▲43.91)のほぼ半分まで縮小しています。

 4月の豪ドル/円の終値は69.74円。3月の終値に比べて3.71円の豪ドル高/円安でした。

 楽天証券が4月末に投資家を対象に実施した相場アンケート調査の結果によると、回答者4,240人のうち、約31%(1,296人)が、5月の豪ドル/円は「豪ドル安/円高に動く」と考えていることが分かりました。

 一方「豪ドル高/円安に動く」は最も少ない約17%(731人)。「動かない(分からない)」は約52%(2,213人)で半数を超えました。

 豪ドル/円のDI(円安見通しから円高見通しを引いたもの)は▲13.33。2カ月連続のマイナスとなりましたが、マイナス幅は先月(▲30.63)の半分以下に縮小しています。