日経平均の見通し

楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之

「マイナス幅が大きく縮小し、不安が一服」

 今回調査における日経平均の見通しDIの結果は、1カ月先がマイナス29.34、3カ月先はマイナス15.38となりました。

 両者ともDIのマイナスが続いていますが、前回調査の結果がそれぞれマイナス63.55とマイナス35.46だったことを踏まえると、マイナス幅をかなり縮めており、ひとまず新型コロナウイルスをめぐる情勢に対する不安が一服しているような印象です。今回の調査期間(4月27~29日)を含め、4月の日経平均が順調に値を戻してきたことが結果に反映されたと言えます。日経平均は調査終了後の30日に2万円台に乗せたため、足元のDIはもっと改善しているかもしれません。

 とはいえ、回答の内訳グラフを見ると、弱気派と中立派の占める割合がまだ圧倒的に多い状況に変わりはありません。先行きの見通し懸念は後退しているものの、まだ強気に傾いているわけではないことが分かります。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成
出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成 

 4月の日経平均は新型コロナウイルスの感染拡大の頭打ち感や経済活動再開に向けた動きによって、不安から期待を先取りする格好で戻り基調を描いてきましたが、5月に入ってからも2万円台を維持する展開が続いています。2月6日から3月19日にかけて急落した下げ幅の「半値戻し(2万176円)」も達成しています。

 このままの調子が続けば2万1,000円台以上の上昇があってもおかしくはありませんが、その一方で「ちゃぶ台返し」の懸念が複数存在している点には注意です。

 一つ目の懸念は、足元の株式市場が好感している経済活動再開に向けた動きです。世界各地の状況を見ると、ウイルス感染の抑制やピークアウトに伴って実施されるところがある一方で、根拠に乏しい見切り発車や経済の停滞懸念、国民の不満の圧力などに押されて再開されているところが混在しており、感染の再拡大リスクと隣り合わせです。

 もちろん、感染の再拡大自体はすでに想定済みで、相場の視点は「アフター(After)・コロナ」から「ウィズ(With)・コロナ」へと変わりつつありますが、新興国はまだ感染拡大中の地域が多いほか、先進国でも、次の感染拡大に向けた体制強化や準備、支援策をどこまで整えているかについて状況はまちまちです。まだ対応力が試されている段階のため、本格的な経済活動再開までの道のりは株価の上昇ピッチが示しているほど早くはないのかもしれません。

 二つ目の懸念は米中関係です。海外株式市場では、国内連休期間中に米中対立への警戒が浮上した場面がありました。昨年の連休明けは、米中摩擦の激化によって株価が下落トレンドへと舵を切りましたが、今年はひとまず波乱の取引再開は回避できています。とはいえ、米中摩擦の再燃は今後の相場の重石となる可能性があります。

 中国は一足早く経済活動の再開へと歩みを進め、今月22日からは延期されていた全人代(全国人民代表大会)の開催も予定されていますが、実際に米国から何らかの制裁や報復措置が発動されてしまえば、中国だけでなく米国自身や世界経済も無傷で済みません。そうなれば株価の「二番底」の懸念も現実味を帯びてきます。

 そして、最後の3つめは米NASDAQ市場の強さです。米NASDAQ指数は、先週末8日(金)の取引終了時点で年初来プラスに転じています。その強さの背景にあるのは、アルファベット(グーグル)やアマゾン、フェイスブック、アップルといった「GAFA」を中心とする米巨大IT企業銘柄への買いです。

 米NASDAQの強さは、ごくわずかの勝ち組企業に資金が集中している状況を表しているだけで、その裏にはコロナウイルスの影響により苦労している業種や企業が圧倒的に多いことを意味しています。

 ここからは実際の経済回復など、現実のスピード感とのギャップを埋めていくことになり、日柄調整の継続が想定されます。基本的に好材料に反応しやすく、ウイルスに対するワクチン開発や治療薬承認などで進展があれば、一段高も有り得るものの、市場の動きと現実の動き、政治と思惑、資金の一極集中など、至る所に「ギャップ」や「歪み」が生じており、大きな混乱に至る火種がくすぶっていることを意識しておく必要はありそうです。