トランプ氏が提供するサウジ・ロシアの増産の機会は“駆け込み増産”の意味を持つ
このサウジとロシアの“輸出先の奪い合いと増産量への互いの警戒”に介入し、原油価格を急反発させたのが、トランプ大統領です。先週、原油価格は30%を超える急反発となりました。原油を含むジャンルを横断した銘柄の騰落率のランキングはこちらで確認できます。
先週、トランプ大統領は、サウジとロシアに対し日量1,000万バレルの供給を削減するよう促したと報じられました。
トランプ大統領のツイートは、
(1)プーチン大統領と話をしたサウジのムハンマド皇太子と話をした
(2)サウジとロシアがおよそ日量1,000万バレル生産量を削減することを、期待し、望む
(3)もし日量1000万バレルの削減が実現すれば、石油・ガス産業にとって素晴らしいことになるだろう
という内容でした。
この内容からは、トランプ大統領はプーチン大統領と直接話をしていないことがわかります。また、肝心の削減量ですが。報道では1,500万バレルという数字がありましたが、ツイートで言及されているのは1,000万バレルのみでした。
3者が一堂に会したわけではないこと、量が不明瞭であることなどから、実現性が乏しそうに見えますが、実現性が乏しいと感じる最も大きな理由は1,000万バレルという規模です。
サウジとロシアの原油生産量は、EIA(米エネルギー省)によれば、合計で日量2118万バレルでした(2020年2月時点)。つまり、ここから日量1,000万バレルを削減させるためには、それぞれ生産量を2月に比べてほぼ半減(47%減)させなくてはなりません。
このことは、今月に入って4年4カ月ぶりに増産が可能になったサウジとロシアにとっては、非常にハードルが高いと思われます。ただし、サウジとロシアが大増産をした後に、削減をするのであれば、可能性はゼロではなくなります。
トランプ大統領は、“目先”、サウジとロシアが大増産を行うことを容認し、“増産後に”、減産を行わせることを想定していると筆者は考えています。サウジとロシアがお互いの増産量をけん制し合っている中、まずは増産をすればよいと言っているわけです。
ではなぜ、トランプ大統領はサウジとロシアが増産をすすめるのでしょうか。そしてその増産にどのような意味があるのでしょうか?
図4:OPECプラスで減産に参加していた国の原油生産量の合計 単位:百万バレル/日量
上図のとおり、OPECプラスは、2016年後半と2018年後半に、大増産をしました。2016年後半の増産は2017年から減産を始めるため、2018年後半の増産はルールを変更した上で2019年1月以降も減産を継続するためでした。筆者はこれらの増産を減産実施・継続のための “駆け込み増産”と呼んでいます。
なぜ“駆け込み増産”をするのでしょうか? 答えは簡単です。あらかじめ削減前の基準となる生産水準を引き上げ、減産実施時の実質的な削減量を少なくし、身を切る負担を軽減するためです。
原油市場はそれでいて、OPECが減産をしてくれている、と勘違いをするわけです。このような、市場をあざむく数字のトリックはOPECやロシアの常とう手段です。