サウジ、ロシア、米国は足並みをそろえ、数カ月先の原油価格上昇を画策

 なぜ、市場がいとも簡単に駆け込み増産という数字のトリックにひっかかってしまうのでしょうか? いくつか要因があります。

 原油価格を景気のバロメータと考えていたり、原油関連の金融商品に投資をしたりしている人にとって、OPECの減産実施はこの上ない好材料です。このような市場関係者は、常に減産実施や延長実現を期待しているため、いつからいつまで、いつのどのくらいの生産量に比べて何バレル減産するか、などの詳細はさておき、とりあず、減産が実施・延長されることが重要と考えている節があります。ニュースの見出し(だけ)に、注目しているわけです。

 OPECプラスは、これまで、ニュースの見出しだけが注目されていることを逆手にとって、“駆け込み増産”というトリックを使い、減産を実施したり、延長したりしてきたわけです。そして今回も、そのような企てを、トランプ大統領を交えて行おうとしていると考えられます。

 まずはトランプ大統領が、増産量でけん制し合うサウジとロシアに、後々、削減をすることを前提に今、増産(駆け込み増産)をさせる。米シェールが今にも減少しそうであるため、生産シェアを回復させるのにうってつけのタイミングだと付け加える。

図5:2020年のサウジ、ロシア、米国のイメージ図

出所:各種資料をもとに筆者作成

 トランプ大統領が望むのは、大統領選挙での勝利です。その勝利に必要な石油関連の要素は、(1)米国の金融市場を混乱させる原油相場の急変が起きないこと、(2)米国国民が購入するガソリン小売価格が高すぎないこと、そして(3)石油票が増えることだと、考えられます。

 その意味では、サウジとロシアと、いろいろと問題はあってもコミュニケーションが取れている現在の状況は(1)を達成するために適した状態にあると言えます。また(2)については、原油価格が年初の半分以下まで下落したため、ここから急騰しなければおおむね問題はないと見られます。ただ、(3)については、現在の原油価格のままでは不十分と言えます。

 そこで、サウジとロシアに目先、駆け込み増産を行わせ、彼らに後に減産をさせ、原油価格を上昇させることを考えているのだと筆者はみています。

 減産が再開されるタイミングを計る上で、目標とする大統領選挙が11月3日(火)であること、駆込み増産の進み具合や、サウジとロシアのシェアの回復に関わる米シェール生産量の減少の具合などの変動要因、ロシアは毎年10月から12月に原油生産がピークを迎えるという条件など、さまざまな点を考慮する必要があります

 ただ、OPECは毎年6月(5月)、12月(11月)の2回、総会を行っていること、近年何度か9月に臨時総会を行ったことがあり、特に今年9月はOPEC設立60周年を迎える記念となる月であることを考えれば、自ずと、6月か9月か12月に絞られてきます。

 この点に、ロシアが年後半に年間の生産量のピークを迎えるため、2021年1月から減産を開始した方がロシアにとって都合が良いとみられること、6月や9月に減産を再開した場合、原油価格は反発しても、反発が長続きしなかった場合に、大統領選挙に向けた石油票獲得が思うように進まないリスクが生じることなどを考えれば、12月の総会が減産再開を決定するターゲットとなる可能性が浮上します。

 目先、サウジとロシアはまずは計画的に“駆け込み増産”を行い、減産再開の準備をすすめ、トランプ大統領はサウジとロシアが増産をしても、市場に対し、シェールが減っている、サウジとロシアに減産を促している、などと期待を持たせる発言をしながら原油相場の急落を回避し続ける、などの展開が考えられます。

 そして、サウジもロシアも、部分的に衝突しながら、増産をしつつ、将来の減産再開にむけて協議をする、あるいは、サウジと米国、ロシアと米国が、協議を進めている、など市場に期待を持たせる話題を小出しにしながら、駆け込み増産を見えにくくする可能性があります。

 期待を増幅させる協議については、仮にサウジとロシアの1対1だった場合、増幅させるパターンは1パターンのみですが、そこに米国が加わり3カ国となると、期待を増幅させるパターンは3パターンに増えます。サウジとロシアの間で協議が不調だとしても、米国とサウジの協議が上手くいっていれば、不調を補うこともできます。

 トランプ氏が選挙で勝利した2016年は、9月の臨時総会で12月のOPEC総会でロシアを含んだ協調減産が実施されることが示唆され、実際に12月の総会で決定しました。この9月と12月の総会の間に、米国の大統領選挙が行われ、トランプ氏が当選したわけです。

 今の原油価格の水準は3者、誰にとってもメリットよりも、デメリットが多いわけですので、この状況を、数カ月単位の中期的な視点に立ち、計画的に不調を起こしつつ、市場に期待を増幅させながら、12月(11月末の場合もある)のOPEC総会での減産再開に向け、ことが進んでいくと筆者は考えています。

 このように考えれば、すでにサウジとロシアは休戦状態にあり、11月大統領選挙を控えたトランプ大統領と3者で、戦略的に原油相場を上昇させる取り組みをしていると言えます。

 今回は、逆説の石油戦争、ということを念頭に、さまざまなデータを用いながら、今後の展開を考えました。

[参考]具体的な原油関連の投資商品

種類 コード/
ティッカー 
銘柄
国内ETF/
ETN
1671 WTI原油価格連動型上場投信(東証)
1690 WTI原油上場投資信託 (東証)
1699 NF原油インデックス連動型上場(東証)
2038 NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル
2039 NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア
海外ETF OIL iPath シリーズB S&P GSCI原油トータルリターン指数ETN
投資信託   UBS原油先物ファンド
外国株 XOM エクソンモービル
  CVX シェブロン
  TOT トタル
  COP コノコフィリップス
  BP BP