米シェール生産減を狙って、サウジ・ロシアが会合決裂を仕掛けた

 今にも米シェール生産量が減少しそうな点は、3月6日の会合でサウジとロシアが会合を決裂させる大きな理由になったと考えられます。

図3:サウジ、ロシア、米国、および米シェール主要地区の原油生産量 単位:百万バレル/日量

出所:EIAのデータをもとに筆者作成

 先述のとおり、米シェールは今にも生産量が減少しそうです。減産の効果を薄めて、OPECプラスを苦しめ続けた、あの米シェールの生産量が現実的に減りそうなのであれば2014年11月のOPEC総会でそうしたように、原油価格を人為的に急落させてとどめを刺さない手はありません。

 減産をやめれば、原油価格が急落して米シェールの減少を確実なものにできるだけでなく、減産に縛られずに生産量を自由に決められるようになります。サウジやロシアにとって、減産をやめれば、米シェールを減少させることと、自らが増産をできるようにすることの2重のメリットがあったわけです。

 2重のメリットはともにサウジとロシアのシェアを回復させることにつながります。また、増産ができるメリットについては、原油価格という産油国にとっての単価が記録的な安値水準にある中で、増産によって販売量を増やし、財政面に与えるマイナスのインパクトを軽減することにもつながります。

 まさに、サウジとロシアにとって3月6日の会合は、2重のメリットを享受する千載一遇のチャンスだったわけです。

 石油戦争ではこの会合は“決裂した会合”と言われていますが、逆説の石油戦争という観点で考えると、“サウジとロシアが結託して減産を終わらせた会合”と言えると思います。そしてその理由は、サウジとロシアがともに、2重のメリットを享受するため、です。

 実はこの会合は、記者たちが会場に入れない異例ともいえる会合でした。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、と会合の注意事項に書かれています。

 現場にいたメディア達は会場に出入りする産油国の要人たちにインタビューを試みていましたが、これまでのように記者会見があり、ぶら下がりや囲み取材ができた会合に比べれば、現場で引き出すことができた情報量は少なかったと考えられます。

 逆に、有利だったのは要人たちです。会場に出入りする際にポーカーフェイスを装い、短く思わせぶりな一言二言を残せば、市場が勝手にそれに反応してくれるわけです。昨年9月に就任したサウジの王族出身のエネルギー大臣が、しかめっ面で会場から出てきた旨のニュースがありましたが、実際のところ、中で何が話し合われていたのかは公式には明らかになっていません。

 3月6日の会合から1カ月たった今日でも、OPECのウェブサイトに議事録が掲載されない異例の事態になっていることはほとんど報じられていません。議事録が掲載されていないことは、サウジとロシアが結託した可能性がゼロではないことを示していると、筆者は考えています。