サウジアラムコの株価急落!

 また、今回の原油価格の急落によって、昨年12月11日にサウジの国内市場に上場した世界最大の石油会社サウジアラムコの株価が下落しています。

図:サウジアラムコの株価 単位:リヤル

出所:各種情報源より筆者作成

 時価総額はすでに、サウジのムハンマド皇太子が目標に掲げた2兆ドルを割り込み(上場来最高値である1株38リヤルで時価総額2兆ドルを超えた。1リヤル0.27ドルで計算)、なおも下落傾向にあります。

 同社の株を保有しているサウジの国民や一部の機関投資家は、含み損を抱え、配当金の額にも不安が生じています。また、同社の株価下落は今後のサウジ国内市場での状況をより難しくするなど、サウジに多くの不安材料を与えています。

 40ドル台でも財政を維持でき、国内からも減産ではなく増産を望む声が上がっていたロシアと、主に自国都合で原油価格を上昇させるために減産強化・延長を強行しようとしたサウジは意見が合わず、協議が決裂したのだと考えられます。

 意見の相違の元になった原油価格の下落のきっかけが、新型コロナウイルスの世界規模の拡大であったことを考えれば、新型コロナウイルスの世界規模の拡大が、OPECプラスの減産を終わらせる大きな要因となったと言えます。

 とはいえ、原油価格の下落は程度の差はあれども、ロシアにもマイナスの影響を与える要素であることからすれば、協調減産の終了はサウジ、ロシアそして減産に参加していた産油国にとってマイナスの面があると言えます。この点は「諸刃の剣」を振りかざした時に、自らに跳ね返ってくるダメージと言えます。

 では、サウジやロシアをはじめとしたOPECプラスは、「諸刃の剣」を振りかざし、誰に(何に)ダメージを与えたのでしょうか? それは他ならぬ、米国のシェール業者だと筆者は考えています。

 以前の金は4%、原油は14%下落。新型コロナのパンデミック化で、原油投資は長期投資の時代へ突入か!?で述べたとおり、米シェール主要地区では、折からの原油価格の下落により、複数の開発関連指標が減少傾向にありました。

図:米シェール主要地区の開発指標と原油価格の推移

出所:EIA(米エネルギー省)およびCME(シカゴ・カーマンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

 原油生産量を考える上で、「数×質=量」とイメージとした場合、すでに“数”にあたる油井の数の変動要因である掘削済井戸数と仕上げ済井戸数は減少傾向にあります。

 “質”にあたる同地区の新規1油井あたりの原油生産量はまだ増加傾向が続いているため、本格的に“量”(原油生産量)が減少するまでに時間がかかる可能性がありますが、少なくとも数が減少している以上、近い将来、米シェール主要地区の原油生産量の増加が目立って鈍化する、あるいは減少に転じる可能性は高いと言えます。

 サウジやロシアは、この機を逃すはずはなく、たたみかけるように、原油価格を下落させ、本格的に米シェール業者を退出させ、シェアを回復させようとしている可能性があります。

 今回の減産終了の決定は、原油価格が下落していた最中で、米シェール業者の活動が鈍化しつつあったためになされた可能性があります。仮に、原油価格が50ドルや60ドルなどのシェール業者が活動しやすい価格帯だった場合、減産を継続していたかもしれません。

 原油価格が下落し、米シェール主要地区の開発関連指標が減少していたタイミングだったからこそ、サウジやロシア生産シェア奪還のために「諸刃の剣」を抜くことができたのだと筆者は考えています。

※4  OPECプラス:2016年12月に合意し、2017年1月から始まった、OPECと一部の非OPEC諸国が協調して行ってきた減産に参加している国々の総称です。2020年3月8日時点で23カ国あります。OPEC加盟国はペルシャ湾岸のサウジやイラン、イラク、クウェートなど、西アフリカのナイジェリア、コンゴ共和国、ガボンなどの13カ国です。協調減産に参加する非OPEC諸国は、ロシア、カザフスタン、マレーシアなど10カ国です。