三本の矢(3つの要因)と金(ゴールド)相場の関係

 三本の矢に例えた3つの要因と金(ゴールド)相場の関係は次のとおりです。

◆第一の矢:株安(米国の主要株価指数を想定)

 FRB(米連邦準備制度理事会)が3月3日(火)に、新型コロナウイルスが世界的にまん延しはじめ景気減速懸念が高まっていることを受けて、緊急に会合を開き、利下げ決定しましたが、株価は大きく反発しませんでした。

 また、3月3日(火)のスーパーチューズデー(※2)の翌日の株価は、米トランプ現大統領の対抗馬として民主党から立候補している前副大統領のバイデン氏が有力になったことで反発しましたが、長続きしませんでした。

※2  スーパーチューズデー:4年に一度、11月1週目の火曜日に米大統領選挙が行われます。同年夏の党大会で、共和・民主、各党それぞれ、大統領選の最終的な候補者を決定しますが、立候補する者は、各党の最終的な候補者になるために“代議員数”を多く獲得しなければなりません。立候補者は、州ごとに行われる予備選挙や党員集会で勝利すれば、州ごとに割り振られた数の代議員を獲得できます。2月から夏の党大会まで、予備選・党大会が順次行われますが、中でも2月下旬あるいは3月上旬の火曜日は一度に複数の週で予備選・党大会が行われることが伝統となっており、この日は“スーパーチューズデー”と呼ばれています。今回のスーパーチューズデー(3月3日)を終え、3月8日時点の民主党の各立候補者(トランプ現大統領の対抗馬候補)の獲得代議員数は、バイデン氏664人、サンダース氏573人と報じられています。

 米国の利下げ、大きな期待を醸成する材料の出現などは、格好の株高の材料になり得ます。しかし、短期間にこれらの材料が重なったものの、株価の回復は今のところまだ、鈍いと言えます。この鈍さは、代替資産として金を保有する妙味を高めていると言えます。

図:NYダウの値動き 単位:ドル

出所:NYSE(ニューヨーク証券取引所)のデータをもとに筆者作成

◆第二の矢:ドル安(ドル指数※3を想定)

 以下のグラフのとおり、新型コロナウイルスが世界的な拡大を見せた年初から2月の3週目ごろまで、ドルは上昇していました。このドルの上昇について、「安全資産と目されて買われている」、とする報道が散見されました。

 しかし、新型コロナウイルスの世界的な拡大をきっかけに、その安全資産と目されたドルも売られる展開になりました。それに加えて、先述のとおり、FRBは3月3日に緊急利下げを行い、そして同時に、3月17日、18日のFOMC(連邦公開市場委員会)でも追加の利下げを示唆しました。

 ドル金利の引き下げは、ドルを保有した場合に得られる金利(利息)が減少するため、米国以外の通貨に対してドルが安くなる、つまりドル安の要因になることがあります。複数のドルを手放す動きが目立ったことで、2月の4週目以降、ドルの下落が目立ち始めたわけです。

 ドルと金の価格の動きの傾向(あくまで傾向であり金価格の変動要因のすべてではない)は、ドルと金(ゴールド)に“世界のお金”という共通点があることからある程度、説明ができます。

 ドルは現在、世界の貿易で最も多用されている通貨(基軸通貨)であり、金(ゴールド)は多くの国で換金することができる、ともにある意味、“世界のお金”と言えます。

 その世界のお金の片方が強くなった場合、もう片方が相対的に弱くなる、ドルと金の価格の関係は、ある程度、相対関係の傾向(ドルが高い時は金が安い、ドルが安い時は金が高い、という傾向)があると言えます。

 このような新型コロナウイルスに端を発した複数の要因でドル安が進んだことは、代替通貨として、ドルとしばしば相対関係がみられる金を保有する妙味を高めていると言えます。

※3  ドル指数:ユーロ、円、ポンドなどの複数の主要国通貨に対する、ドルの強弱を示す指数。上昇すれば複数の主要国通貨に対してドルが強い、下落すれば弱いことを示します。例えば、ユーロ/ドルであれば、ユーロとドルの2つの通貨の強弱の相対関係を、ドル/円であれば、ドルと円の2つの強弱の相対関係を示します。金(ゴールド)とドルの相対関係を考える場合は、通貨ペアではなく、ドルの実質的な強弱に比較的近い、複数の主要国通貨に対するドル指数に着目することが有効であると、筆者は考えています。

図:ドル指数の動き 単位:ドル

出所:NYSE(ニューヨーク証券取引所)のデータをもとに筆者作成