FRBは新型肺炎を新しいリスクとして認知

 FRBは2月7日、半年に一度議会に提出する金融政策報告書を公表しました。パウエルFRB議長は11、12日の議会両院の委員会ではこの報告書に基づいて証言します。この報告書の中で「その経済規模ゆえに、中国での深刻な機能不全は、リスク選好の後退やドルの上昇、貿易およびコモディティ(商品)価格の落ち込みを通じ、米国や世界の市場に波及する可能性がある」と説明し、「中国での新型肺炎の影響が見通しへの新たなリスクをもたらした」と指摘し、警戒感を示しました。1月29日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後のパウエル議長の説明から一歩踏み込んだ内容となっています。ただ、金融政策の方向性には特に触れていません。

 11日の議会証言でパウエル議長は「新型肺炎は新たなリスク」と指摘し、景気への影響を綿密に監視していく方針を示しました。

 FRBは新型肺炎の影響が経済見通しの新たなリスクと認定しました。このリスクが現実のものになるのかどうか、これから続々と発表されてくる経済指標の結果に注目していく必要があります。しかし、影響や予測は出始めています。例えば、2月11日の新聞記事の見出しだけを拾ってみると、

  • 「(日本の)上場企業の減益幅拡大 今期予想、中国減速 肺炎打撃に」
  • 「日産九州工場を一時停止 新型肺炎 中国製の部品滞る」
  • 「中国 経済活動再開 日本企業 フル稼働に時間 人員・部品の確保急務」
  • 「日本経済に悪影響『GDP(国内総生産)1兆円低下』試算も」

 これら見出しを読んでいるだけでも、延長された春節明け後の中国の経済活動の再開が進まないことが伝わってきます。日本経済へもじわりじわりと影響が及んできているのが分かります。

 これらの予測の中でも特に悲観的な見通しを発表したのが英調査会社キャピタル・エコノミクスです。2月7日付けの投資家向けレポートで下記のような見通しをしています。

  • 新型肺炎の影響で、世界経済が1-3月期に前期比マイナス成長予測
  • 43四半期続いた世界の成長を止め、米金融危機後の2009年以来のマイナス成長に
  • 感染拡大が深刻な中国の実質成長率は前年同期比で約3%と、直近までの半分に急減速
  • 発生源の中国経済に加え、中国人観光客の大幅な落ち込みや製造業のサプライチェーンの混乱により、アジアの他の新興国経済も大きな打撃を受ける
  • 先進国では、観光や貿易面での結びつきが強いオーストラリアがマイナス成長に陥ると予測
  • それ以外の先進国では影響は相対的に低そうだと分析しているものの、サプライチェーンの脆弱性について現時点では判断が難しいとして「先進国の成長率予測は下方修正を迫られるリスクが大きい」とも指摘
  • 新型肺炎が早期に収束に向かえば、止まっていた生産などを取り戻す動きが4-6月期から広がると想定し、世界のGDPは問題発生前に想定されていた水準へ2021年半ばにも戻る