米金融機関の指摘は、サウジとの蜜月を維持したいトランプ大統領の代弁!?

 新型コロナウイルスに感染したことが原因で初めて死者が出たという報道がなされたのが1月11日でした。市場が徐々に同ウイルスを大きな脅威と感じ始めていた中、1月22日に米大手金融機関が石油の消費が減少することを指摘し、さらに、大きな脅威と認識するようになりました。

 このころには、市場の関心は、年初に強まった中東における懸念から、中国を起点とした新型ウイルスの拡大状況に向けられるようになりました。実際には日量26万バレルの規模は軽微なものであるにも関わらず、です。

 米大手金融機関がこのような指摘をした背景には、米国とサウジアラビアの蜜月関係について考える必要があると筆者は考えています。

 現在、イラン情勢悪化をきっかけに武器輸出を拡大させる、アラムコをNY市場へ上場させるための準備を進める、など、複数の案件で米国とサウジ双方がメリットを拡大させる重要なタイミングにあるとみられます。

 一方、サウジと蜜月関係にあるトランプ大統領が、サウジが指揮を執って減産を実施して原油高を目指しているOPEC(石油輸出国機構)を直接的にけん制することが難しいため、米金融機関が代弁者となり、新型コロナウイルスの拡大を利用し、トランプ大統領が考える“原油安=減税”を実現するために石油の消費が減少すると指摘をしたと、筆者は考えています。

 また、実際のところ、過去に5回、WHO(世界保健機関)は、複数の国をまたいで拡大した感染症に対し非常事態宣言を発令しましたが、そのいずれのタイミングにおいても、石油の消費量が極端に減少した事実は確認できません。

図:WHOの過去5回の非常事態宣言と世界の石油消費量の推移

単位:百万バレル/日量
出所:各種報道およびEIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 原油市場は、米大手金融機関の指摘をやや悲観的に受け止めていると筆者は考えています。