新型コロナウイルス感染拡大で中国関連銘柄が下落。原油相場は年初来11%下落

 原油相場は、今年に入り、下落の一途をたどっています。年初からの下落率は主要銘柄の中で群を抜いています。

図:主要銘柄の年初来騰落率(1月27日午前時点)
※上海市場は春節のため1月24日~2月2日まで休場

出所:各種データより筆者作成

  米中貿易戦争において、中国が一時的に具体的に品目名を挙げて不買を行ったものの、今後輸入量を拡大させようとしている大豆、中国の景気動向に影響を受けやすい銅、そして中国の主要株価指数の一つである上海総合指数が下落しています。主に中国に関わる主要市場が下落していることが分かります。

 そして、原油はそれらの下落を上回る、年初来11%超の下落となっています。なぜこれらの銘柄が下落したのでしょうか? また、なぜ原油の下落率が大きいのでしょうか?

 一つの答えに“新型コロナウイルス”の感染拡大が挙げられます。報じられているとおり、昨年(2019年)12月に中国湖北省武漢市で発生が確認され、今年2020年1月11日にはじめて同ウイルスが原因とみられる死者が発生したと報じられました。

 感染の本格的な拡大時期と今年の中国の春節の時期(1月24日~2月2日)が合致したこと、ウイルスが変異していると報じられたことなどにより、新型コロナウイルスの拡大懸念が急激に高まり、感染源である中国の景気鈍化懸念が強まって、上記で述べた複数の中国関連銘柄が下落しているとみられます。

米大手金融機関が減少するとした“日量26万バレル”は世界の石油消費量の0.26%

 下落した銘柄の中でも、原油の下落率が大きくなっています。1月22日に、米大手金融機関が同ウイルスの拡大が世界の石油消費量を減少させる懸念があると具体的な数量を示した上で指摘をしたことが、下落に拍車をかけたとみられます。

図:WTI原油価格の推移 単位:ドル/バレル

出所:CME(シカゴ・カーマンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

 

 実際に、米大手金融機関が減少すると指摘した“日量26万バレル”の世界の石油消費は、どの程度の規模なのでしょうか?

図:世界の石油消費量と石油の需給バランス(年平均)

単位:百万バレル/日量
出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 

 上図の通り、EIA(米エネルギー情報局)が今月公表した統計によれば、2019年の世界の石油消費量は日量1億80万バレルでした。また、供給量から消費量を差し引いた需給バランスは日量3万バレルの供給不足でした。

 これらの値に、米大手金融機関が今回の新型コロナウイルスの拡大によって消費が減少すると指摘した量、“日量26万バレル”を当てはめると、世界の石油消費量は2019年に比べて0.26%減少し、石油の需給バランスは同日量23万バレル供給過剰になると考えられます。

 消費量においては0.26%の減少は、需給バランスにおいても供給過剰とはいえ、2018年が日量91万バレルの供給過剰だったことから考えれば、小さい規模であると言えます。

(1)過敏にならざるを得ない世界的な感染症がテーマで、(2)米大手金融機関がまことしやかに、(3)消費が減る話をする、などの条件がそろったため、原油市場は(特に原油を生産しない先進国の市場で)過剰に反応してしまっているようにみえます。

 米大手金融機関の指摘が、下落に拍車をかける複数の条件を含んでいたため、原油価格は他の主要銘柄と比較しても、大きな下落になったのだと考えられます。

米金融機関の指摘は、サウジとの蜜月を維持したいトランプ大統領の代弁!?

 新型コロナウイルスに感染したことが原因で初めて死者が出たという報道がなされたのが1月11日でした。市場が徐々に同ウイルスを大きな脅威と感じ始めていた中、1月22日に米大手金融機関が石油の消費が減少することを指摘し、さらに、大きな脅威と認識するようになりました。

 このころには、市場の関心は、年初に強まった中東における懸念から、中国を起点とした新型ウイルスの拡大状況に向けられるようになりました。実際には日量26万バレルの規模は軽微なものであるにも関わらず、です。

 米大手金融機関がこのような指摘をした背景には、米国とサウジアラビアの蜜月関係について考える必要があると筆者は考えています。

 現在、イラン情勢悪化をきっかけに武器輸出を拡大させる、アラムコをNY市場へ上場させるための準備を進める、など、複数の案件で米国とサウジ双方がメリットを拡大させる重要なタイミングにあるとみられます。

 一方、サウジと蜜月関係にあるトランプ大統領が、サウジが指揮を執って減産を実施して原油高を目指しているOPEC(石油輸出国機構)を直接的にけん制することが難しいため、米金融機関が代弁者となり、新型コロナウイルスの拡大を利用し、トランプ大統領が考える“原油安=減税”を実現するために石油の消費が減少すると指摘をしたと、筆者は考えています。

 また、実際のところ、過去に5回、WHO(世界保健機関)は、複数の国をまたいで拡大した感染症に対し非常事態宣言を発令しましたが、そのいずれのタイミングにおいても、石油の消費量が極端に減少した事実は確認できません。

図:WHOの過去5回の非常事態宣言と世界の石油消費量の推移

単位:百万バレル/日量
出所:各種報道およびEIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 原油市場は、米大手金融機関の指摘をやや悲観的に受け止めていると筆者は考えています。

新型コロナウイルスについては、WHOが非常事態宣言を発令するかに注目

 新型コロナウイルスの件については、金融機関の発言よりもまずは、WHOが当該ウイルスの拡大について、“非常事態宣言”を発令するかが重要なポイントになると筆者は考えています。

 仮に、WHOが非常事態宣言を発令すれば、さらに、世界景気の鈍化懸念・石油消費の減少懸念が強まる可能性がありますが、逆に、非常事態宣言を発令しなければ、金融機関が指摘するほど深刻な影響が発生しない可能性もあります。

 WHOは、1月22日と23日の2度、非常事態宣言の発令を見送っています。23日の会合では“10日後、もしくはそれよりも早いタイミングで会合を開く準備をしている”としており、早ければ今週にも会合が開催される可能性もあります。

 新型コロナウイルスについては、鎮静化するまで数カ月間程度かかる可能性もありますが、まずは冷静に、過度に悲観的にならずに、WHOの動向に注目することが重要だと思います。

 状況が鎮静化する方向に進めば、原油相場においては下落要因が軽減されたこととなり、反発色を強めると考えられます。