指針9:「リスクオフで円高」の名残と長期円安

 日本は貿易黒字が減り、対外投資も直接投資など為替感応度の低いものが増え、「リスクオフで円高」もかつてほど敏感ではなくなりつつあります。それでも、膨大な経常黒字を積み上げる対外債権国の通貨として、今後10年も「リスクオフで円高」の下地は残り、これを活かしたサイクル投資も有効でしょう。

 他方、10~20年先まで視界を延ばせば、人口減の日本経済のアンダーパフォームに伴い、円は下落トレンドに傾きそうです(図9)。2020年代は、「リスクオフで円高」を活かすサイクル投資を通じて、海外の高成長を獲る長期投資ポジションを構築すべき10年と位置づけられます。

図9:円は実質では既に下落トレンド

出所:日本銀行

指針10:日本リスクへの備え

 最近、BOE(英国中央銀行)は気候変動に対する金融のストレステストをする考えを明らかにしました。

 自然の脅威として考えると、日本にはさらに震災リスクがあります。日本政府は、首都直下、南海トラフ発の大震災だけ見ても、「いつ起こってもおかしくない、今後30年に70~80%の発生確率」と警戒を呼びかけています。単純に期間按分(あんぶん)すれば2020年からの10年間にそれぞれ4分の1という高確率です。想定の最大被害となれば、日本の財政、経済の持続可能性が一気に問われるでしょう(図10)。

 日本政府は他方で、国民に地道な長期資産形成を呼びかけていますが、円ベース投資家には、大震災リスクのセルフ・ストレステストを行うことをぜひお勧めします。海外投資は、高成長狙いばかりでなく、日本リスクの分散目的にも適(かな)うことになるからです。

図10:主要国の政府債務残高

出所:IMF

10年を見通す意味

 1年先を語るのも「鬼が笑う」と言います。10年先までとなると、笑い転げて呼吸困難になるほどの話です。それだけに、「それならありえる」と実感していただけそうなテーマを意識して構成しました。一つのイメージ・トレーニングとしてお役に立てるなら幸いです。

 過去30年の世界の経済、金融を大局的に見れば、のどかな繁栄を謳歌(おうか)した時代だったと言えるでしょう(日本では失われた20年、世界でも度々ショックはありましたが)。来たる30年をこの延長線上に思い描くのは楽観が過ぎると感じます。それでも、個々人が将来に備えてできること、なすべきことを問えば、適切な投資による資産形成が合理的な選択肢であることは疑いありません。備えとして取り組まなければならない以上は、お任せ投資ばかりでなく、不確実性に挑む知的刺激を楽しみたいと考えています。

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