為替DI:投資家は円安を期待。しかし、相場は円高へ

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示しています。

「1月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」楽天証券が昨年末に実施したアンケートにご回答頂いた3,504名のうち、1,149名(約33%)が「円安」に動くと予想しています。「円高」に動くは886名(約25%)で最も少なく、「中立」で変わらないは最も多い1,469名(約42%)でした。

「円安」と「中立」で予想全体の75%を占めました。ドル/円は「今後も横ばい状態が続くか、動くとするならば円安へ」というのが一般的な投資家の見方です。

 12月のドル/円はすでに109円台でしたから、「円安」と予想した1,000人以上の方は、1月中に110円がみられると期待しているのでしょう。

 円安見通しから円高見通しを引いたDIは+7.51で、3カ月連続でプラス。円安見通しが円高見通しより強くなっていることを示しています。

 DIの推移グラフを見ていただくとはっきりわかるのですが、2019年のDIは5月からマイナス(円高見通し)が続き、8月にはリーマンショックが起きた2008年10月以来となる▲46.06まで下がりました。しかし、その後は急速に円安見通しが強まり、10月にはDIがマイナスからプラスに反転しています。

 投資家の円安見通しが続く背景には、マーケットを悩ませていた様々な問題が、昨年末に一気に解決に向かったことがあると考えます。最大の懸案事項ともいえる米中貿易協議は、第1段階とはいえようやく合意に至り、中国の米農産物大量購入と引き換えに、米国は関税引き下げを決定しました。米経済の大きな不安が消え、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げする必要もなくなりました。

 英国ではジョンソン首相の保守党が12月の総選挙で大勝。今年1月末に英国はEU(欧州連合)を離脱します。EUとの貿易交渉はこれからですが、少なくとも、離脱する、しないという不透明感が消えてさっぱりしたことで、対英投資復活も期待できそうです。

 欧州の景気懸念で、昨年9月に利下げと量的緩和再開に追い込まれたECB(欧州中央銀行)ですが、最近になってラガルド新総裁は「景気に下げ止まり感が見えてきた」と、慎重ながらも発言に明るさが見えています。

 米中貿易摩擦が鎮静化して中国経済が上向くことで、急ピッチの利下げを強いられていたRBA(豪準備銀行)やRBNZ(NZ準備銀行)も一息つけそうです。

 2020年を迎えて、さぁこれからだ、というときに、米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ最高司令官を空爆によって殺害したというニュースが飛び込んできました。これはトランプ米大統領の指示といわれています。中国を「制圧」した勢いに乗ってイランも懲らしめてやろうと考えたかどうかはわかりませんが、マーケットが出鼻をくじかれてしまったことは確かです。

 

2020年ドル/円の注目レベル

 2019年ドル/円の安値は、1月3日のフラッシュクラッシュ時の1ドル=104.01円。高値は4月24日112.40円(4月24日)でした。2019年の終値は108.65円で、1年間で0.95円だけ円高になりました。1年間の値幅は8.39円しかありませんでした。

 1日の最大値幅は、フラッシュクラッシュに下落したときの4.83円で、12月には0.07円しか動かない日もありました。平均すると2019年の1日の平均値幅は0.58円でした。

 2019年のドル/円相場は、出だしでフラッシュクラッシュに見舞われて急落したものの、新たな円高の流れをつくることはなく逆に徐々に戻す方向に動き、4月には下落前の水準である112円を回復。ただそこで円安の流れも尽き、6月以降は108円を中心にした相場が継続しました。振り返ってみればドル/円の勝負は最初の4カ月でカタがついていた、ということになります。

 2020年のドル/円相場の注目レベルはどこでしょうか。

 最初のポイントは、2019年の高値と安値の50%、中心値である108.20円です。ここをトレンドの変わり目、マーケットセンチメントの切り替えポイントと考え、108.20円より上にあるなら円安目線、下にあるなら円高目線で相場を見ます。

 実際、12月にドル/円が108.20円より上の109円台で推移していたときは、「円安相場」というイメージを持つ人が多かったように思えます。ところが2020年に入り、108.20円を下に抜け107円台まで下がった途端、「円高相場」というイメージが急に強まっています。

 108.20円は、去年の1年のレンジの中立地点で、ここを起点に上がっていくならば、ドル高/円安のパワーが強まっていることになるし、逆に下がっていくならば、ドル安/円高のパワーが強まっているといえます。もちろん、108.20円を境にパッと切り替わるわけではなく、107円から109円のレンジにいるうちは、それほど強い方向感はないと考えたほうがいいでしょう。どちらかに抜けるまで待って、その方向についていく、というのが戦略イメージです。

 108.20円を過ぎてドル/円が下落していく場合、次のメドは、2019年10月安値の106.48円、そして9月安値の105.74円になります。上昇していく場合、次のメドは、10月高値の108.94円、そして12月高値の109.73円になります。

 為替Walkerでは、相場展開に応じて、ドル/円のポイントを随時アップデートしています。どうぞ参考にしてください。