テーマ10:秩序ある日本の持続性をチェック

 日本は、「大過」なければ、秩序ある社会生活を保てるかもしれないと期待しています(便利さの漸減[ぜんげん]を甘受しつつでしょうが)。高齢者は選挙の最大勢力として保守を好む一方、常に少数派の若年層は、将来に不安を抱いても発言力が乏しい上に、少子化時代で就職機会に事欠かないため、現状追認的なままかもしれません。

 秩序ある社会生活の中で、世界に先行する高齢化テクノロジー、観光立国化、あるいは海外の高成長の糧を巧みに取り込む日本企業など、活路が広がることを期待します。

 一方で、日本の政治は安定性を欠くリスクがあります。日米同盟強化に手腕を発揮した安倍晋三首相の長期政権の後継は、国内の求心力も、対外的な影響力もいったん弱まるでしょう。米国のアジアへのコミットメント減退、日本経済の中国プレゼンスの増大の狭間で、弱体化した日本の生還が難しい選択を迫られる場面があれこれ想起されます。巨額赤字を抱える財政、異次元緩和を続ける金融政策は自縄自縛で、機動性を失っていくでしょう。

 そんな日本にとって、最大級の「大過」は震災です。首都直下、南海トラフ地震の発生確率は今後30年70~80%と公式発表されています。この確率計算の妥当性はともかく、単純に期間案分すれば、2020年代の10年に4分の1ほどの確率で発生することになります。想定される最大被害が現実となれば、日本の財政、金融政策の持続可能性が問われるでしょう。日本の投資家として、資産の保全と流動性(現金化)をきちんと備えておくべき高確率であることは、疑いありません。

 次回の後編(1月24日公開予定)では、2020年代の10年間の勝機とリスクを、投資家目線で捉えます。

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