テーマ2:欧州の「日本化」と統合の軋み

 欧州は相対的に豊かで、民主主義が最も成熟した地域であり、環境など持続可能社会を目指すリーダーであり続けるでしょう。しかし、統一通貨ユーロはEU(欧州連合)にとって、復権の夢の象徴よりも、忍耐の種になっていきそうです。ドイツなど欧州先進国は、人口が減少し、経済成長の停滞、低インフレ、低金利という「日本化」現象が進行する恐れがあります。既にECB(欧州中央銀行)に一元化された金融政策の機能低下は明らかです。

 経済の鈍化は、反ユーロ政党の台頭を招き、各国財政はポピュリズム色を帯びやすくなるでしょうが、EU参加国は財政運営でも制約を受けます。EUにとどまることへの不満が出ても、ユーロを破棄する選択肢は事実上ないため、鬱屈(うっくつ)状態を抜けられません。EUへの不信は、衰えるドル覇権を生き永らえさせる一助になると思われます。

テーマ3:自由主義国の民主主義の混迷

「西側」自由主義国の民主主義には機能不全が危惧されます。

 民主主義は裕福で安定した中間層を持つ国の贅沢(ぜいたく)品とも言われます(北アフリカ諸国のジャスミン革命で見たように、独裁政権を倒しても、民主主義体制は簡単には確立できません)。安定した中間層は、二大政党制でも互いを配慮した政策が採用されやすく、民主主義も機能しやすいと考えられます(図3)。ところが、1980年代以降の米英の自由化、市場化、グローバル化の過程で、一部の勝ち組に富が集中し、中間層は衰退し、閉塞感を強めてきました。それが反移民、反グローバル化など、不安や不満を映す単純なスローガンになって表出している面があると感じます。2020年代に古き良き民主主義が復活するとは想定しがたい情勢です。

図3:民主主義の経済学

出所:『民主主義の経済理論』(アンソニー・ダウンズ著・古田精司監訳、成文堂刊)を参考に、田中泰輔リサーチ作成