テーマ7:新興国が成長センターとして再浮上

 テーマ1~5は、米欧衰退、米中対立、テクノロジーのリスクと暗く思われるかもしれません。しかし、米欧経済は底堅く、中国も減速しつつも成長し、米中は摩擦と同時に相互依存も強め、テクノロジーは利点が勝るというのが2020年代の基本観です。

 加えて、2012~2019年にドル高の煽(あお)りで資金流出に苦しんだ新興国は、2020年代には上昇サイクルに戻る可能性が高いとみています(図6)。2018年時点で、先進国と新興国のGDP比率はドル評価で6:4ですが、PPPベースでは4:6に逆転します。世界成長の牽引(けんいん)役としてBRICSやASEAN諸国が再び注目度を高めるでしょう。アフリカ諸国が持続的成長へ離陸を果たし、具体的な投資対象になるかも注目すべき10年でしょう。

図6:新興国のブームと危機をもたらすドルサイクル

出所:Bloomberg Finance L.P.

 テーマ8:地政学リスクがリアルな危機に

 米国の経済、軍事の相対的地位の低下によって、パクス・アメリカーナ(米国主導の世界平和)は終わりつつあります。米国の睨(にら)みが効かなくなると、地域的な紛争も抑止しにくくなり、中国やロシアが対抗勢力に付く代理戦争もなお一層収拾が付きにくくなると思われます。IT、AIは資金力のないテロリストにも、ドローンなど安価で有効な攻撃力を与えると考えられます。米国自体が超大国としての度量を失いつつあること、先進国の民主主義が直情的になりやすくなることを勘案すると、大規模な報復による戦火の拡大リスクも排除できません。過去30年は、地域的な紛争の悲劇はいくつもありましたが、グローバル投資の観点では、人類史上他に例を見ないほど長閑(のどか)な時代だったと言えるかもしれません。今後10年、20年、30年、平和が続くことを祈念してやみません。

テーマ9:地球環境と国際関係のひび

 地球温暖化が自然災害、干ばつや生態系の変化による食糧危機、疫病などで、早くも2020年代に人類が生存の危機にさらされるとの予想は、現時点で主流ではありません。しかし、パクス・アメリカーナの終えん、民主主義の機能不全などを勘案すると、地球環境それ自体の危機より、例えば食糧危機が政治・軍事的緊張を高めるリスクの方が先行して切実な問題になる恐れがあります。