相場急落の内なるバネ:企業債務

 一方、2019年を通じた金利低下の過程で、懸念を強めつつあるのは企業債務の増加です(図3)。定格付け企業でも、さらに低金利の資金調達が可能になり、債務が事業採算と見合うのか疑問が出ています。

 また、債務増の調達資金で自社株買いをする企業も少なくありません。ある程度の株安場面では、投資家の投げ売りを企業の自社株買いが阻止することで、相場の安定化要因になる面があります。しかし、景気悪化と株安が相まって進む局面になると、あるところから急に、過大となった債務に耐えられない企業のデフォルト懸念が強まり、株安とともに悪循環的に広がる恐れがあります。

図3:米国の部門別債務残高の推移

出所:Bloomberg Finance L.P.

 この分水嶺を事前に想定することは不可能なため、株安局面の定格付け社債利回り(の国債利回りとの格差)の上昇をリスク要因として観察し続ける必要があります。

 2019年は、このシグナルが落ち着きを見せ、安堵(あんど)できるように思えるかもしれません。しかし、この状況が長引くこと自体が、バネをギリギリ巻き上げるプロセスでもあるのです。

 金融機関の企業向けローンを証券化したCLO(ローン担保証券)の投資家ポジションが急増し、リーマン・ショック級のバブル崩壊がありうるとの論調も散見されます。しかし、現時点でこの見方に与(くみ)するつもりはありません。リーマン・ショックの後、金融機関のリスク管理ははるかに保守的に強化されています。金融商品もリーマン・ショック以前の金融増長期ほど複雑かつ悪質なものが、まん延しているわけではないと判断しています。それでも、地道な実体経済を超える金融ポジションの巻き戻しには、相応のインパクトが必要であることを理解し、警戒する必要があります。