個人の借金について

 個人の場合でも、前記の三条件を満たす場合がある。

 典型的なのは、不動産価格が十分に安い場合に利用する住宅ローンだろう。不動産価格の判断には、単に「家賃利回り>借入金利」という条件だけでは不十分だ。両者の差が、不動産投資の諸般のリスク(土地・建物の価格リスク、空室リスク、家賃変動リスク、災害リスク、補修費等のリスク、税制変化のリスク、など)を十分に補えるだけのものでなければならない。この条件を満たす物件であって、十分に返せる額のローンを、低廉な金利で借りることができるなら、その借金に問題はないと判断できよう。

 なお、近年は、全般的な低金利を反映して住宅ローン金利が低いが、一見返済できるように見えても、過大な額の借金をしないことが肝心だ。不動産屋も金融機関も、高い住宅を買わせて、大きな住宅ローンを組ませたいと思っているのだから、顧客の側は注意する必要がある。

 個人の場合で、もう一つ「良い借金」になり得る場合があるのは奨学金だろう。奨学金は、無利子の場合もあるし、有利子の場合でも低利で借りられる場合が多い。大学に進学することで(進む大学にも、本人の適性にもよるだろうが)将来の収入の増加が十分見込まれるなら、奨学金を使うことは十分合理的だ。

 なお、奨学金の返済義務を子供が負うことは必ずしも悪くない。大学に進学することで将来の所得が増えるメリットを享受するのは、親ではなく、主として子供本人だからだ。

 中所得層くらいの親で、子供の教育費を使い過ぎて、自分の老後の資金が不足するケースが少なくないので、教育費については、投資としての効率性と、負担のあり方を検討するべきだ。

 個人の場合、住宅ローンと奨学金以外の、特に使途制限のない消費目的に使える借金は概して金利が高く、「良い借金」の条件を満たさない場合が多い。

 資産運用にあっては、機関投資家が内外の株式に想定する期待リターンは無リスク金利プラス5%くらいなのだから、二桁の金利になることが珍しくない個人対象の借金は利用しない方がいい場合が多い。「相当に損だ!」と心得るべきだろう。