サウジの供給が正常化するまで、原油相場は上振れしやすい状況が続くか

 今回の事件はなぜ、起きたのでしょうか? イランがフーシ派を支援し、今回の事件が起きたと一部では報じられています。もし仮に、そのとおりだったとすると、さまざまな点が線でつながります。

 まずは、最近起きたサウジにおける要職の交代を確認します。先述のとおり、サウジのエネルギー相が交代しました。王族がエネルギー相に就くのは王国始まって以来の異例のことと言われています。

 また、目下、幹事会社や上場先取引所の選定が再度進みつつある、サウジの国営石油会社サウジアラムコの会長職が、ムハンマド皇太子に近いとされる政府系ファンドのヤシル・アル・ルマヤン氏が就きました。 

 もともと、サウジのエネルギー相とアラムコの会長は、王族出身者ではない同一人物が就くことが伝統とされていましたが、直近で起きた要職の交代は伝統を覆すものでした。

 アブドルアジズ王子(新エネルギー相)は先週金曜日(ドローンによる攻撃の前日)、OPECプラスの配下組織で、OPECプラス(石油輸出国機構=OPECと、非加盟国で構成される組織)が現在行っている原油の減産を監視する機能を持つJMMC(共同閣僚監視委員会)に、OPECプラスのリーダー格であるサウジの代表として初めて出席しました。

 会議は、現在行っている減産についての正当性を確認し、減産を順守していない国のさらなる減産の協力を求めることについて触れました。

 同氏はエネルギー相就任直後に、減産については体制を強固なものにすると発言し、減産を強化することをほのめかすなど、減産を着実に行う姿勢を全面に推し出しています。

 イランは現在、生産量の上限がない減産免除国ですが、2018年5月以降、米国の制裁によって急激に原油生産量が減少し、減産実施とは無関係の自国都合の生産減少が起きています。

 9月に入り、ようやく、米国との対話のきっかけがつかめそうになり、制裁解除→原油生産量増加→外貨獲得拡大、というシナリオを描くことができるムードが出てきていましたが、その折、サウジの新エネルギー相の就任により減産強化が打ち出され、イランとしては自国が減産免除国から、生産量の上限を設定された減産実施国にならないか危機感が高まった(サウジへの対抗意識が強まった)可能性はゼロとは言えません。

 また、2018年10月に発生・発覚したサウジの記者殺害事件以降、停滞していたサウジアラムコのIPO(新規公開株)について、この数週間で徐々に進展が見られていることを示す報道が出ていました。最近、皇太子に近い政府系ファンドの人物が会長に就任し、さらに具体的に、かつスピード感を持って話が進展しそうな状況にありました。

 まるで水と油のような関係といえる、アラブ人の大国とペルシャ人の大国の関係において、サウジのアラムコのIPOが成功すれば、これまでの関係に大きな変化が生じる可能性があります。

 王族肝いりの会長がアラムコのIPOに向け会社の情報の透明性を高め、かつ、王族の新しいエネルギー相がアラムコの抱える資産、つまり原油の価値を直接的に左右する原油相場を引き上げる(仮にIPOが成功した後も高止まりさせる)ために減産を強化することを示唆している、という新人事の意図が透けて見えてきます。

 ただ、情報の透明性、資産価値の向上およびその維持以外に、アラムコのIPOに必要なことがあります。 筆者は、施設の堅牢性だと思います。堅牢な施設でなければ、安定した原油の生産・石油の精製はできず、収益を上げ続けることができません。

 収益に直接影響する施設が堅牢であるかどうかが、証券取引所への上場およびその後の資金調達のための重要な要素だと思います。

 その意味では、今回のサウジへの攻撃は、サウジアラムコのIPOを阻害する大きな爪痕となったと言えます。サウジにOPECのリーダーとして牛耳られ、その上、アラムコのIPOが成功に向かいつつある中、それらを覆すにはどうするか? という選択の中、イエメンを経由しサウジに打撃を与えた可能性は否定できません。

 直近でおきたサウジの要人の交代、アラムコのIPOと減産の状況などを踏まえると、イランには攻撃する動機がなかったとは言えないと筆者は考えています。

 今後の原油相場の動向については、先ずは生産量の復旧の進捗と新たな攻撃の有無によって見方が変わってくると考えています。

 数日や数週間など、生産が復旧するまでの期間についてさまざまな報道がありますが、数日長くても1週間程度で復旧すれば、悲観的なムード・懸念が去り、安心感から急騰した原油相場は一旦反落する可能性があります。なおかつ、新たな攻撃がない、ということが条件です。

 一方、復旧まで数カ月を要する事態になり、懸念が時間の経過とともに高まり、かつ新たな攻撃が発生した場合、原油相場はさらに上値を目指す展開になると考えています。例えば、WTI原油ベースで、今年4月に付けた65ドル、70ドルの節目、昨年9月に付けた75ドルなどを目標としながら、上値を切り上げる展開が予想されます。

 サウジは東アジア・インドに重要な輸出先を抱えているため、復旧は比較的短期間で完了するのではないか、と筆者は考えています。