サウジの生産量半減が長期化すれば、アジアの原油需給がひっ迫する!?

 サウジのアブドルアジズ・エネルギー相(サルマン国王の息子 アブドルアジズ・ビン・サルマン王子)は、同国の石油日量生産能力の半分、約570万バレルの生産が停止したと発表しましたが、その規模はどのようなものなのでしょうか。

 図:サウジの原油生産量が半減した場合の影響(筆者推定)

出所:OPEC、EIAなどのデータより筆者推定

 サウジの原油生産量の半分にあたる量は、OPEC(現在は14カ国)の原油生産量の約16%、中東地域の石油生産量の約12%、世界の原油生産量の約7%、世界の石油供給量の約5%にあたると筆者は推定しています。

 この場合、原油は鉱物として地中から獲得した液体あるいは粘性のある化石燃料を、石油は原油の他、天然ガスを生産する井戸から得られた軽質油の性状を持つ液体などを含んだものとしています。

 世界全体の供給への影響度は上記のとおりですが、当事国であるサウジの影響はどうなのでしょうか? 以下は、相手国別のサウジの原油輸出シェアです。

 図:サウジの相手国別原油輸出シェア(金額ベース)(2017年)

出所:UNCTAD(国連貿易開発会議)のデータをもとに筆者作成

 

 UNCTADのデータによれば、2017年にサウジが最も原油を輸出した相手は日本でした(金額ベース)。次いで中国、米国、韓国、インドなどとなっています。また、サウジの原油輸出のおよそ60%が“東アジアとインド”に向けたものでした。

 今回のサウジの事件の影響が、新たな攻撃が発生したり、攻撃を受けた施設の修理に時間がかかったりして長期化した場合、地域的にはこの“東アジアとインド”への影響が大きくなるとみられます。

 この場合、米国への影響も免れませんが、米国は消費国であると同時に世界No.1の原油生産国という側面を持っています。

 では逆に、その東アジアとインドはどの国から原油を輸入しているのでしょうか?以下は、東アジア諸国とインドの相手国別原油輸入シェアを示したものです。

 図:東アジア諸国とインドの相手国別原油輸入シェア(金額ベース) (2017年)

出所:UNCTADのデータをもとに筆者作成

 サウジが多く原油を輸出する東アジアの主要国とインドは、サウジに頼っていることが分かります。特に日本は原油輸入の40%程度をサウジに頼っています。他の3つの国でもサウジ依存度が高いことが分かります。

 世界全体で見れば、計算上は直ちに問題はなくても、事件の影響が長期化すれば、大消費地である東アジアとインドに供給懸念が高まる可能性があると言えます。

 中国や韓国、インドは中東だけでなく、中南米やアフリカから輸入しています。今回の事件を機に、今後、世界全体としてサウジや中東頼みではなく、調達先の多角化が図られていく可能性があります。

 特に、韓国において10位にランクインした米国ですが、米国自体現在は原油の輸入が解禁され輸出量が増加しています。米中貿易戦争の中、政治的な要因によって中国は米国からの輸入をほぼ行っていませんし、日本も米国からの原油輸入は徐々に増加していても目立った量にはなっていません。

 米国からの輸入は、ホルムズ海峡の封鎖リスクもある中東への依存度を下げ、調達先を多角化させる有効な手段であると考えられます。仮に、今回のサウジの件が長期化すれば、日本ではこれまで以上に、米国産原油を精製する技術が高まり、中国では政治的な障害を取り除く動きが進み、それぞれ、米国からの原油輸入が増加すると考えられます。