為替DI:時代は「ドル高」、「円高」、「クロス円安」

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル円、ユーロ円、豪ドル円それぞれの、今後1ヵ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円の先安」見通し、マイナスの時は「円の先高」見通しを意味します。プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強まっていることを示しています[図1]。

[図1]​DIの推移:2018年8月~2019年7月

「8月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」という質問に対して、7月末の水準(108.80円)に比べて「円高」になるという予想が最も多く、回答数全体(5,048名)のうちの約42.5%(2,152名)を占めました。反対に最も少なかったのは「円安」予想で約22.5%(1,136名)。残りの約35%(1,760名)は「動かない(わからない)」という回答でした [図-2]。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

ドル/円のDIは、円安・円高の判断の分岐点の0を3ヵ月連続で下回る▲20.13で、投資家の円高見通しが依然強いことを示しています。ただしマイナス幅は前月より19.6ポイント減っています。

またユーロ/円のDIは▲25.91(前回▲30.61)、豪ドル/円のDIは▲14.05(前回▲25.45)で、いずれも分岐点の0を下回り円高見通しが優勢となっています。[図-3、4]

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

ただ、ここでお断りしなくてはいけないのは、今回のアンケートは締め切りが7月29日で、FOMC(米連邦公開市場委員会)の利下げも、トランプ大統領が突如発表した対中追加関税も、さらに米7月雇用統計の結果も含まれていません。アンケート終了後の相場の大きな動きを考えると、現在のDIはさらにマイナスに傾いている可能性が高いでしょう。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 

 投資家の相場観に米中貿易戦争の急激悪化というファクターが含まれていないとして、それでもDIがマイナスだったのは、FRB利下げによる日米金利差縮小で円高を予想したのだと思います。ただし、FOMC後のマーケットは反対方向に動きました。ドル/円は109.31円まで円安が進み、7月の高値をつけています。

 なぜかというと、FOMCの決定については、米経済データは悪くないのに「利下げする必要あるのか」という意見が根強く存在していたこともあり、利下げは「今回やっておしまい」というのがマーケットの判断だったからです。金利差は縮まったとはいえ、ドルの金利的優位性は今後も継続するわけだから、ドル買いが正解だということになったのです。もっともこの時点では、まさかトランプ大統領があんなツイートをするとは誰も想像もしていなかったでしょう。

 米中貿易摩擦が一気に悪化するなか、「利下げはもうないだろう」と言っていたマーケットの変わり身は素早く、すでに9月利下げを100%以上織り込んでいます。つまり今年中にあと2回の利下げもあり得ると意見を変えたわけです。もしこの時点でアンケートを取ったならDIは大幅に円高方向に傾いているかもしれません。

 とはいえ冷静になって考えてみると、世界が景気後退に陥ったとき、どの通貨を選ぶべきかと問われたら、それはユーロでもポンドでも新興国通貨でもなく、やっぱりドルしなかない、という結論に落ち着くのではないでしょうか。

 ただし、円に関していえば、セーブヘブンの円買いのイメージが強く、また日銀の長期間にわたる異次元緩和政策のおかげで他の中央銀行に比べ利下げ余地が限られていることもあって、円高に動く条件が整っています。

 8月の相場は、「ドル高」、「円高」、そして、その結果引き起こされる「クロス円下落」になると考えます。