※本記事は2016年9月6日に公開したものです(GPIF資産額は最新情報に更新)。

「運用期間」、30年、3年、3日、の違いは?

 世の中では、「長期投資」は大変良いものだということになっている。筆者もその意見に賛成する。では、「短期投資」はだめなのだろうか?

 その問題を考えるためには、「長期」と「短期」を具体的に想定する必要があろう。例えば、期間が30年あれば長期投資で、3年であれば短期投資だと決めたら、結論はどうなるか。

 筆者は、3年を、投資するに十分値する期間のように思う。また、これから3年の前提で投資する場合も、30年の前提で投資する場合も、運用内容(つまりポートフォリオ)はほぼ同じになるのではないか、と想像する。

「短期」が3年ではなく、3日なら、さすがに運用内容が変わるだろう。

 それは、例えば、売買のコストが3日間で投資元本の0.1%掛かるとすると、このコストは、年率に換算すると10%以上のマイナス効果を持つからだ。リスク資産に投資する際に期待される「リスク・プレミアム」を食い尽くすほどのコストが掛かるのでは、リスク資産に投資することは合理的ではない。

 他方、3年の投資期間があれば、往復で0.1%のコストは、年当たり約0.033%に縮小する。影響が完全にゼロだとは言わないが、個人投資家レベルならほぼ無視できる程度のコストだ。

 30年間、全くのバイ・アンド・ホールド(持ち切り)運用なら、計算上の売買コストは約年率0.0033%に縮小するだろうが、売買コスト以上に影響が大きい問題として、30年間の途中には、ポートフォリオを変更したくなるような前提条件の変化が起こる可能性がある。

 例えば、現状では、国内債券は低利回りで魅力が乏しい。長期債を株式と組み合わせるのも気が進まないし、金利上昇の可能性に備える意味でも、個人向け国債(「変動10」のタイプ)でも買っておくのが良かろう、と筆者は思う。

 しかし、例えば、長期金利が2%を超えるような状況が訪れた場合には、長期の債券と株式を組み合わせる運用が魅力を増す可能性があり、この場合に、ポートフォリオを一部変えることは十分ありうることだ。

 30年間、「そのようなことは起こり得ない」と決めつけてその間ずっと長期債を持たないのも、また「途中で必ず利回り上昇が起こる」と決めつけて、「30年間の予想平均利回り」を期待リターンと決めて今から長期債を持つのも、「どちらもおかしい!」ことは、容易に理解できる。

 普通の行動は、「3年」がいいのかどうかは分からないが、30年経たなくても、運用期間途中までの状況を見て、都度都度、必要があればポートフォリオを調節することだろう。

 つまり、運用期間が長いからといって、当面のポートフォリオを運用期間にあわせて固定する必要はない。個人投資家の運用資産額でいうと、1年から、どんなに長くとも5年程度の期間を想定してポートフォリオを作り、その後の前提条件に変化があれば、ポートフォリオを調整する、という考えでいいはずだ。

 こうして考えると、ある程度の期間(たとえば「3年」)を超える期間の運用を行う場合、「当面のポートフォリオ」は運用期間が変化してもほとんど同じになることが予想できる。

 当面のポートフォリオを作るために想定する期間、すなわち、運用計画の想定期間を決める要因は、(1)取引コストと、(2)状況・情報の変化スピードの想定だ。

 取引コストの影響については、次のようなケースを思考実験してみるといい。仮に、いくら売買額が大きくても、マーケット・インパクトを含めた取引コストが完全にゼロなら、アセット・アロケーションを含めて、ポートフォリオは毎日変更しても構わないはずだ。そうしないのは、なぜなのだろうか?

 ちなみに、個人の資産運用の場合、大きな資金と、小さな資金の差は、「案外小さい」。数百万円と数億円では、たいした違いはない。

 長期の運用だからといって、特別な方法があるわけではないことがお分かりいただけるだろう。