信託報酬率を引き下げる、という初めての決断

2015年というのは、<購入・換金手数料なし>シリーズにとって、いや、日本の投資信託市場にとって、ある種エポックメイキングな年だったといえるだろう。この年の11月、<購入・換金手数料なし>シリーズが、信託報酬率の引き下げを実施したのだ。
これは、今振り返って想像する以上に大きな出来事だったといえる。今でこそ当たり前になっている感があるが、日本の投資信託市場にあって、すでに設定されて運用が始まっている公募投資信託が信託報酬率を引き下げるというのは、当時、ほとんど例のないことだったからである。それだけに、生みの苦しみは大きかったと上原さんは言う。

「ファンドが成長するにつれて大きくなってくる収益、つまり成長の果実を、我々と投資家のみなさんとでシェアするようにしたいというのは、もともと考えていたことです。そうすることで、投資家の皆さんと共に成長していくファンドにしたいと思っていました。残高が大きくなったときに信託報酬率を引き下げていく、というのはその具体的な方策です」

「ただ、これを実際にやるとなると大問題でした。我々としてもやったことがないことですので検討段階から社内で異論は噴出しますし…。加えて難題だったのは、販売会社さんの協力をどうやって得るかということでした。信託報酬率の引き下げを実のあるものにしていくためには、どうしても販売会社さんの協力が欠かせません。信託報酬率は当局への届出によって効力が発生しますが、届出の前に、すべての販売会社さんから賛同を得る必要があるわけです」

そこで、ニッセイアセットは販売会社一社一社との交渉を開始するわけだが、信託報酬率の引き下げというのは販売会社にとっても減収を意味するだけに、抵抗感を示す先もあっただろうことは想像に難くない。

「どういうふうに話を切り出せばいいやら、ウチの営業マンもかなり逡巡したことと思います。で、意を決して交渉してみると、なにしろ販売会社さんにとっても初めてのことだからでしょう、最初は目が点というか『チョット、オ話ノ意味ガワカリマセン』みたいな反応でした」

「その後、すぐに賛同してくださった販売会社さんも多かった一方で、予想通りネガティブな反応もありました。『趣旨には賛同するが値下げに同意する決裁のしかたが定まっていないのでできない』なんていう先もありました。信託報酬率の引き下げが当時どれだけ新奇なことだったがわかりますよね。それでも、最終的にはすべての販売会社さんが我々の思いに同意してくださいました。それで、信託報酬率の引き下げを実現することができたんです。そして今、お取り扱いいただいている販売会社さんは皆、我々の思いをよく理解してくださっています。」

苦労して実現した値下げの効果は絶大だった。これをきっかけに<購入・換金手数料なし>シリーズは、「ブロガーが選ぶFund of the Year」上位入賞の常連ファンドに名を連ねていくことになるとともに、残高拡大の加速度にも一層のはずみがついていくことになる。

コストへのこだわりと、その先の取り組み

 現在、<購入・換金手数料なし>シリーズの純資産残高は1,826億円(2019年3月末時点、シリーズ合計)。わずか6年で国内有数のインデックスファンド・シリーズへと成長を遂げたわけだが、その最大の要因はやはり低コストを追求し続けてきた点にあるだろう。<購入・換金手数料なし>シリーズ全体では、2015年を皮切りにすでに5回、毎年1回のペースで信託報酬の引き下げを行っている。

 <購入・換金手数料なし>シリーズ外国債券インデックスの信託報酬の推移で見ても、発売当初は0.380%(年率・税抜き、以下同)だったが、2年後には0.200%、その翌年には0.170%に引き下げている。さらに今年2019年6月には3度目の引き下げを断行し0.140%とした。当初のコンセプト通り、純資産残高の増加にともなって信託報酬を下げてきている。純資産残高の増加によって収益が増え、すると信託報酬率の引き下げがやりやすくなり、その結果さらに残高が増加する、という好循環に入っていると言える。

「信託報酬以外にもどこかコスト削減できる部分がないか、常に目を光らせています。最近では監査法人さんに監査報酬の引き下げを了承していただきました。信託報酬率について『毎年引き下げます』とお約束することはこのファンドの趣旨ではありませんが、今後も運用にかかる経費を見直し、安さを追求していく姿勢に変わりはありません。」

 一方で、コスト削減に一定の限界があるのは事実である。信託報酬ゼロの商品が米国で発売されているが、コストがゼロ以下の負値になることがない以上、いずれコスト競争は終わりを告げることになる。

「コスト競争のその先も、常に考えています。ひとつには顧客サービスではないでしょうか。どうしたら投資家の皆様の投資体験をより上質なものにできるかをひとつひとつじっくり考えていきたい」

 その手始めといえるのが、投資家向け月報(マンスリーレポート)の見直しだろう。インデックス投資を行っている投資家は月報に何を求めるのか、どんなことを知りたいのか。それらを考えながらリニューアルを実施しているという。

「おかげさまで、ウチの月報は評判がいいようです。ブログやツイッターで『見やすい』『役に立つ』などといったコメントを残してくださる方もいらして、我々としてもたいへん励みになっています。」

「広告宣伝はしないというのがもともとの基本姿勢ですが、それがその時々の最適解かということも、常に考えています。広告宣伝を含め、受益者とのコミュニケーションは、今後ますます大事になってくるでしょう。広告宣伝や我々からの情報発信に触れるということ自体が、受益者にとってのUX(顧客体験)の一部であるかもしれないですし…。それに、そうした取り組みが残高の拡大をもたらしてファンドの成長と受益者還元の好循環サイクルを加速させてくれるなら、そのほうがこのファンドの趣旨に適うという考え方もある。これは、その時々の状況・環境に応じて考えていきたい。」

 後発組ながらインデックスファンドのコスト革命をけん引してきたニッセイの<購入・換金手数料なし>シリーズ。設定から6年が経ち、新たな局面を迎える同シリーズの変革はまだまだ続く。

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