<購入・換金手数料なし>シリーズの誕生

「DC専用だったニッセイ日経225インデックスファンドのネット販売を始めたとき、もはやネットチャネルは無視できないと感じていました。このチャネルは今後、発展を遂げることはあっても、後退することは絶対にないだろうと。そのときから、ネットを軸に戦略を考えるようになりました。」

 ではいったいどんな商品をネットに乗せていくべきなのか。ネット向けの商品戦略についてさまざまな案を検討した結果、「真っ向勝負でいくしかない」という結論に至ったという。

「すでに米国ではインデックス投資に向かう流れができつつありました。日本も間違いなく同じ道をたどるだろうと思いました。だとすると、新たなインデックスファンド・シリーズを立ち上げるしかないだろうと」

 何か画期的な投資アイデアや投資テーマがあり、ユニークなファンドを立ち上げたとしても一過性のブームに終わる可能性が高い。そもそも一つファンドを成功させたところで、それに続くものがなければ出発点に逆戻りする。それならば近い将来、投資信託事業の柱になるようなビジネスを立ち上げ、じっくり育てていくべきではないか。上原さんを含む当時の商品開発メンバーはそう結論づけた。その判断が、将来の<購入・換金手数料なし>シリーズの誕生へと、つながっていくことになる。

 だが、それを実現するにはいくつかの課題をクリアする必要があった。

 

低コストを武器に闘いを挑む!

 上原さんは当時を振り返る。

「初めから皆が皆、前のめりというわけではありませんでした。なぜなら、2019年の今とは違って、ネット証券の市場も、そしてインデックスファンドの市場も、まだまだ規模が小さかったからです。今とは見えている景色がずいぶん違ったんです。そのため、ネット証券向けにインデックスファンドのシリーズを開発していくというのは、当時はまだ、道筋の見えているビジネスとは言えませんでした。そんなニッチなマーケットに対してそこまでやるのか? という雰囲気が強かった。それに、インデックスファンドとしてはすでに他社の先発ファンドがあり、市場で確固たるポジションを築いていました。後発でその牙城を崩しにいくことは、誰の目にも容易には思えませんでした」

 勝算があったわけではない。しかし、ネット証券での個人向け投資信託事業を将来にわたって成長軌道に乗せていくには、その戦略しかないと考えていた。ただしそれには難題があった。先行する競合他社のファンドと競争していくための、ニッセイならではの、新たな差別化ポイントが必要になるからだ。

「アクティブ・ファンドであれば、アイデアやコンセプトで勝負することもできます。しかし、インデックスファンドというのは、工夫の余地が少ないんです。『日経平均株価』や『MSCIコクサイ』など市場インデックスに連動する運用ですから。少なくとも運用面において独自性を出すのは難しい。差別化といってもできることは限られているわけです」

「運用面で大きな差別化できない中で、受益者により大きな価値を提供していくとしたら、コストを追求するしかないだろう、と。愚直な戦略ですが…。で、当時すでにノーロード、つまり販売手数料が無料というファンドはいくつか存在していましたから、次は信託報酬率に目を向けていくのかなと考えました」