楽天証券のお客さま約2万8,000人の投票で投資信託(ファンド)を選ぶ中立性と実用性の高い「第4回・楽天証券ファンドアワード」。このアワードの最優秀ファンドをクローズアップするため、「プロジェクトF~ファンドの挑戦者たち」シリーズをお届けします。

第4回楽天証券ファンドアワード最優秀賞

海外債券部門:<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国債券インデックスファンド

 海外債券部門の最優秀賞に輝いたファンドは「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国債券インデックスファンド」(ニッセイアセットマネジメント)です。

 この授与を記念し、同社代表取締役社長・西啓介氏と、楽天証券代表取締役社長・楠雄治の特別対談のもようをお伝えします。

 そして、運用成績とコストパフォーマンスを維持するため、日々ファンドと向き合う同社社員の熱い想いにも迫ります。ファンド組成前夜や運用中の秘話もありの独占インタビューです。

ニッセイアセットマネジメント代表取締役社長・西啓介氏✖楽天証券代表取締役社長・楠が対談 

ニッセイアセットマネジメント代表取締役社長・西啓介氏(右)にトロフィーを授与

 2016年に引き続いて、海外債券部門の最優秀ファンドに「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国債券インデックスファンド」が選ばれました。

西社長 ありがとうございます。今後もお客さまにとって良い商品を作りつづけていきたいと考えています。ただ業界として、インデックスファンドの手数料引き下げ競争が行き過ぎる感もあります。次はコスト視点だけでなく、お客さま自身が幅広く商品を選択できるような環境が整うことを期待しています。

 確かに、お客さま自身がそれぞれのファンドを見極め、バランスよくポートフォリオを組んで投資できるようになるまでには、その土台作りが必要ですね。

西社長 御社は、急激に口座数を伸ばされていると伺っています。

 楽天グループ内で取り組んでいる楽天ポイントの連携を始めたことで、今まで投資の経験がないお客さまが証券口座を開設しています。また近年、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)や、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)など、投資で資産形成しやすい制度が整ってきたことも追い風になっています。

西社長 資産形成のために、長期、安定的に投資すれば、パフォーマンス(運用成績)がついてくるのは、過去の実績が証明してくれています。まずはポイントや数百円という少額で投資信託に投資したお客さまも、いずれ長期投資の効果を実感できるのではないでしょうか。

 制度の後押しもあり「投資の大衆化」はますます進むものと考えています。そういったお客さまは実際、相場に左右されることなく、投資信託での積み立てをじっくり行っています。

西社長 より長く投資を行っていくために、つみたてNISA、iDeCoがより柔軟な制度になっていくことが望まれます。

 そうですね。現状では後発で良いファンドが出ても、途中で乗り換えができないことなどを不便に感じる方もいます。個人投資家のため、制度改正を監督官庁へ要望しつつ、ネット証券として、よりよい投資環境を整える努力を続けていきたいと考えています。

「若い人たちに長期投資の有用性を感じてほしい」と語る西啓介社長

≫≫ <購入・換金手数料なし>ニッセイ外国債券インデックスファンドをチェック

プロジェクトF・ファンドの挑戦者

 続いて、国内株式部門の最優秀賞受賞ファンド「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国債券インデックスファンド」をラインアップする、<購入・換金手数料なし>シリーズを生み出した責任者、同社常務取締役執行役員の上原秀信さんに、誕生秘話を独占インタビューです。

徹底したコスト追求でインデックスファンドを身近に

リーマン・ショックのただ中で

 金融業界でキャリアを重ねてきた上原さんが、ニッセイアセットマネジメントに投資信託営業の責任者として入社したのは2008年10月。折しもリーマン・ショック直後で、世界中の金融市場が混乱し、世の中の投資熱が冷め切っていたときだった。

「当時、あらゆる金融資産の時価が暴落していました。どこも不毛で勝機はないように見えました。それでも手をこまねいているわけにはいきません。そこで、既存のファンドを見直すことから始めました」

 最初に取り組んだのが、DC(確定拠出年金)専用だった「ニッセイ日経225インデックスファンド」を、個人投資家向けファンドとして売り出すことだった。それまで、企業型の確定拠出年金制度の中でしか投資することのできなかったこのファンドを、ネット証券の一般投資家にも解放したのだ。当時はまだ、ネット証券の市場での存在感は今ほど大きくなかったが、上原さんはネットチャネルの将来に大きな可能性を見出していた。

 結果は吉と出る。もともとDC向けで信託報酬が安かったこともあり、「ニッセイ日経225インデックスファンド」はネット証券の個人投資家の間で、隠れた人気商品となった。

インデックスファンド・シリーズ立ち上げのため、不可能を可能にしてきたニッセイアセットマネジメント常務取締役執行役員の上原秀信さん

<購入・換金手数料なし>シリーズの誕生

「DC専用だったニッセイ日経225インデックスファンドのネット販売を始めたとき、もはやネットチャネルは無視できないと感じていました。このチャネルは今後、発展を遂げることはあっても、後退することは絶対にないだろうと。そのときから、ネットを軸に戦略を考えるようになりました。」

 ではいったいどんな商品をネットに乗せていくべきなのか。ネット向けの商品戦略についてさまざまな案を検討した結果、「真っ向勝負でいくしかない」という結論に至ったという。

「すでに米国ではインデックス投資に向かう流れができつつありました。日本も間違いなく同じ道をたどるだろうと思いました。だとすると、新たなインデックスファンド・シリーズを立ち上げるしかないだろうと」

 何か画期的な投資アイデアや投資テーマがあり、ユニークなファンドを立ち上げたとしても一過性のブームに終わる可能性が高い。そもそも一つファンドを成功させたところで、それに続くものがなければ出発点に逆戻りする。それならば近い将来、投資信託事業の柱になるようなビジネスを立ち上げ、じっくり育てていくべきではないか。上原さんを含む当時の商品開発メンバーはそう結論づけた。その判断が、将来の<購入・換金手数料なし>シリーズの誕生へと、つながっていくことになる。

 だが、それを実現するにはいくつかの課題をクリアする必要があった。

 

低コストを武器に闘いを挑む!

 上原さんは当時を振り返る。

「初めから皆が皆、前のめりというわけではありませんでした。なぜなら、2019年の今とは違って、ネット証券の市場も、そしてインデックスファンドの市場も、まだまだ規模が小さかったからです。今とは見えている景色がずいぶん違ったんです。そのため、ネット証券向けにインデックスファンドのシリーズを開発していくというのは、当時はまだ、道筋の見えているビジネスとは言えませんでした。そんなニッチなマーケットに対してそこまでやるのか? という雰囲気が強かった。それに、インデックスファンドとしてはすでに他社の先発ファンドがあり、市場で確固たるポジションを築いていました。後発でその牙城を崩しにいくことは、誰の目にも容易には思えませんでした」

 勝算があったわけではない。しかし、ネット証券での個人向け投資信託事業を将来にわたって成長軌道に乗せていくには、その戦略しかないと考えていた。ただしそれには難題があった。先行する競合他社のファンドと競争していくための、ニッセイならではの、新たな差別化ポイントが必要になるからだ。

「アクティブ・ファンドであれば、アイデアやコンセプトで勝負することもできます。しかし、インデックスファンドというのは、工夫の余地が少ないんです。『日経平均株価』や『MSCIコクサイ』など市場インデックスに連動する運用ですから。少なくとも運用面において独自性を出すのは難しい。差別化といってもできることは限られているわけです」

「運用面で大きな差別化できない中で、受益者により大きな価値を提供していくとしたら、コストを追求するしかないだろう、と。愚直な戦略ですが…。で、当時すでにノーロード、つまり販売手数料が無料というファンドはいくつか存在していましたから、次は信託報酬率に目を向けていくのかなと考えました」

特徴的なネーミングと、「そこまでするか」というコスト削減

 商品開発メンバーがもうひとつこだわったのがネーミングだった。とくにネット販売の場合、まずは目に止めてもらう必要があるため、インパクトのある名前をつけることが絶対条件だと考えられたからだ。

 こうして生まれたのが「<購入・換金手数料なし>ニッセイ〇〇インデックスファンド」というシリーズ名。上原さんにはこの案が最初、あまりピンとこなかった。あまりに説明的すぎるし、商品名としては長すぎる気がした。だが、何度も眺めているうちに、コレしかないと思うようになったという。

「『ノーロード』とカタカナにしたほうがスマートだったかもしれません。しかし、我々は『手数料なし』という漢字の名前を選んだ。投資経験のない人に『ノーロード』と言っても、なんのことかわからないでしょう? このシリーズは、これから投資を始める人にも着目してほしいという思いで進めていただので、字面や耳障りの良さよりも、分かりやすさを優先したんです」

 商品名で眼を引くことは狙ったものの、それ以外の広告宣伝は一切していないという。

「少しでも信託報酬を低くするには余計な費用をかけられないからです。というより、広告宣伝にかけるお金があるのなら、それはコスト削減という形で受益者に還元すべきだろうというのが、このシリーズの基本的な考え方です。この考え方は徹底しています。なので、目論見書も、ロゴのデザインやイラストなど、お金のかかる装飾は一切排除して、単色印刷でいくことにしました。そしたらとても質素で武骨なものになってしまいましたけど(笑)。さらに、ネットのお客様向けなので、目論見書を冊子に製本してお渡しするのもしないことにして、印刷費をカットしました。今どき、基本、電子交付だけで完結しますから」

日本の個人向け投信で初めて本格的にコストにこだわったインデックスファンドとしてデビュー

 2013年6月──。こうして<購入・換金手数料なし>シリーズは、日本のリテール向けインデックスファンドで初めて本格的にコストコンシャスなファンドとして、デビューを飾る。まずは「Jリート」を先行販売し、半年後、今回、海外債券部門最優秀ファンド賞を受賞した「外国債券」。そして「外国株式」「グローバルリート」。
これらのファンドは当時の破格といえる信託報酬率30bp(0.3%)台で設定された。その後も日本株式モノや新興国モノ、各種バランスファンドなどをラインアップに加え、現在計12本リリースしている。
上原さんは発売当時のことをこう話す。

「いっさい宣伝はしないという方針でしたから多少出足が鈍くてもしかたないと考えていたのですが、予想を上回る売れ行きに驚きました。当時から投信ブロガーの方々が着目してくださって、たくさん記事を書いてくださったんです。その効果が大きかったと思います。」

また、ネーミング効果もあったという。

「ひと目見れば低コストがウリのファンドと想像がつくため、幅広い方々が関心を寄せてくださいました。最近、個人投資家の皆様の間では『なしシリーズ』『なしなしシリーズ』といった呼び方が定着していて、その点でもこの名称にしてよかったと思います」

信託報酬率を引き下げる、という初めての決断

2015年というのは、<購入・換金手数料なし>シリーズにとって、いや、日本の投資信託市場にとって、ある種エポックメイキングな年だったといえるだろう。この年の11月、<購入・換金手数料なし>シリーズが、信託報酬率の引き下げを実施したのだ。
これは、今振り返って想像する以上に大きな出来事だったといえる。今でこそ当たり前になっている感があるが、日本の投資信託市場にあって、すでに設定されて運用が始まっている公募投資信託が信託報酬率を引き下げるというのは、当時、ほとんど例のないことだったからである。それだけに、生みの苦しみは大きかったと上原さんは言う。

「ファンドが成長するにつれて大きくなってくる収益、つまり成長の果実を、我々と投資家のみなさんとでシェアするようにしたいというのは、もともと考えていたことです。そうすることで、投資家の皆さんと共に成長していくファンドにしたいと思っていました。残高が大きくなったときに信託報酬率を引き下げていく、というのはその具体的な方策です」

「ただ、これを実際にやるとなると大問題でした。我々としてもやったことがないことですので検討段階から社内で異論は噴出しますし…。加えて難題だったのは、販売会社さんの協力をどうやって得るかということでした。信託報酬率の引き下げを実のあるものにしていくためには、どうしても販売会社さんの協力が欠かせません。信託報酬率は当局への届出によって効力が発生しますが、届出の前に、すべての販売会社さんから賛同を得る必要があるわけです」

そこで、ニッセイアセットは販売会社一社一社との交渉を開始するわけだが、信託報酬率の引き下げというのは販売会社にとっても減収を意味するだけに、抵抗感を示す先もあっただろうことは想像に難くない。

「どういうふうに話を切り出せばいいやら、ウチの営業マンもかなり逡巡したことと思います。で、意を決して交渉してみると、なにしろ販売会社さんにとっても初めてのことだからでしょう、最初は目が点というか『チョット、オ話ノ意味ガワカリマセン』みたいな反応でした」

「その後、すぐに賛同してくださった販売会社さんも多かった一方で、予想通りネガティブな反応もありました。『趣旨には賛同するが値下げに同意する決裁のしかたが定まっていないのでできない』なんていう先もありました。信託報酬率の引き下げが当時どれだけ新奇なことだったがわかりますよね。それでも、最終的にはすべての販売会社さんが我々の思いに同意してくださいました。それで、信託報酬率の引き下げを実現することができたんです。そして今、お取り扱いいただいている販売会社さんは皆、我々の思いをよく理解してくださっています。」

苦労して実現した値下げの効果は絶大だった。これをきっかけに<購入・換金手数料なし>シリーズは、「ブロガーが選ぶFund of the Year」上位入賞の常連ファンドに名を連ねていくことになるとともに、残高拡大の加速度にも一層のはずみがついていくことになる。

コストへのこだわりと、その先の取り組み

 現在、<購入・換金手数料なし>シリーズの純資産残高は1,826億円(2019年3月末時点、シリーズ合計)。わずか6年で国内有数のインデックスファンド・シリーズへと成長を遂げたわけだが、その最大の要因はやはり低コストを追求し続けてきた点にあるだろう。<購入・換金手数料なし>シリーズ全体では、2015年を皮切りにすでに5回、毎年1回のペースで信託報酬の引き下げを行っている。

 <購入・換金手数料なし>シリーズ外国債券インデックスの信託報酬の推移で見ても、発売当初は0.380%(年率・税抜き、以下同)だったが、2年後には0.200%、その翌年には0.170%に引き下げている。さらに今年2019年6月には3度目の引き下げを断行し0.140%とした。当初のコンセプト通り、純資産残高の増加にともなって信託報酬を下げてきている。純資産残高の増加によって収益が増え、すると信託報酬率の引き下げがやりやすくなり、その結果さらに残高が増加する、という好循環に入っていると言える。

「信託報酬以外にもどこかコスト削減できる部分がないか、常に目を光らせています。最近では監査法人さんに監査報酬の引き下げを了承していただきました。信託報酬率について『毎年引き下げます』とお約束することはこのファンドの趣旨ではありませんが、今後も運用にかかる経費を見直し、安さを追求していく姿勢に変わりはありません。」

 一方で、コスト削減に一定の限界があるのは事実である。信託報酬ゼロの商品が米国で発売されているが、コストがゼロ以下の負値になることがない以上、いずれコスト競争は終わりを告げることになる。

「コスト競争のその先も、常に考えています。ひとつには顧客サービスではないでしょうか。どうしたら投資家の皆様の投資体験をより上質なものにできるかをひとつひとつじっくり考えていきたい」

 その手始めといえるのが、投資家向け月報(マンスリーレポート)の見直しだろう。インデックス投資を行っている投資家は月報に何を求めるのか、どんなことを知りたいのか。それらを考えながらリニューアルを実施しているという。

「おかげさまで、ウチの月報は評判がいいようです。ブログやツイッターで『見やすい』『役に立つ』などといったコメントを残してくださる方もいらして、我々としてもたいへん励みになっています。」

「広告宣伝はしないというのがもともとの基本姿勢ですが、それがその時々の最適解かということも、常に考えています。広告宣伝を含め、受益者とのコミュニケーションは、今後ますます大事になってくるでしょう。広告宣伝や我々からの情報発信に触れるということ自体が、受益者にとってのUX(顧客体験)の一部であるかもしれないですし…。それに、そうした取り組みが残高の拡大をもたらしてファンドの成長と受益者還元の好循環サイクルを加速させてくれるなら、そのほうがこのファンドの趣旨に適うという考え方もある。これは、その時々の状況・環境に応じて考えていきたい。」

 後発組ながらインデックスファンドのコスト革命をけん引してきたニッセイの<購入・換金手数料なし>シリーズ。設定から6年が経ち、新たな局面を迎える同シリーズの変革はまだまだ続く。

プロジェクトF~ファンドの挑戦者たちシリーズ
自分たちが本当に欲しいファンドを作ろう!
三菱UFJ国際投信
投信業界初!ネット直販の仕掛人は人気ラジオパーソナリティー?
三井住友DSアセットマネジメント
発明級!GDPシェアを反映したバランス・ファンド誕生
三井住友トラスト・アセットマネジメント
看板ファンドを背負うブレない「ファンド職人」
野村アセットマネジメント
徹底したコスト追求でインデックスファンドを身近に
ニッセイアセットマネジメント