「利益なき繁忙」から「利益ある繁忙」へ転換

 2017年3月期まで、ヤマトHDなど宅配便業者は、低収益に苦しんでいました。仕事がどんどん増える中、「利益なき繁忙」が続いていました。売り上げ拡大を重視して収益度外視で仕事を取る体質がしみついていたからです。

ヤマトHDの業績推移

出所:同社決算資料

 人手不足と人件費上昇が深刻化する中で、最大手のヤマトHDは、違法残業の撲滅、未払い残業代の支払いなど、働き方改革に取り組みました。それがコスト増につながり、3期前(2017年3月期)の業績は大きく悪化。ただし、働き方改革と同時に進めた「料金引き上げ」が浸透し、業績は回復に向かい、今期(2020年3月期)には、営業利益・経常利益で最高益を見込んでいます。

 ドライバーの違法残業が無くなると、これまで無理に受注してきた業務がこなせなくなりました。そこで、適正料金を確保するための料金引き上げを徹底させました。料金引き上げに応じなければ仕事を受けない姿勢を打ち出しました。最大手のヤマト運輸、二番手の佐川急便も含め、業界全体に料金引き上げが浸透しました。

 その成果で、ヤマトHDの業績は、今期(2020年3月期)、急回復する見込みです。陸運業界は、ようやく「利益ある繁忙」に転換しつつあると言えます。

 宅配便2位の佐川急便も、ヤマト運輸と基本的に同じ環境におかれていますが、ヤマトよりも高い収益性を維持できています。ヤマトに比べて、拠点も人員も少なく、効率的に配送することで、収益性を維持しています。個別の配達を外注することで、固定費を軽くしている効果もあります。

 ただし、人手不足・人件費上昇に対応し、さらなる効率化のための投資負担が増加するため、今期の営業増益率(会社予想)は1%と小さくなっています。

SGホールディングス(9143)(佐川急便の持ち株会社)業績推移

出所:同社決算資料

 このように、トラック輸送業界は、「利益なき繁忙」から「利益を伴う繁忙」に転換しつつあります。それは実は、建設・土木業界が、5~6年前に経験したことです。

(参考)建設・土木産業と、トラック輸送業の共通点

建設・土木業とトラック輸送業には、3つの共通点があります。
【需要拡大】建設・土木、物流とも需要が拡大基調
【人手不足が深刻】建設・土木技術者、トラック運転者とも不足が深刻
【料金引き上げ】建築・土木単価引き上げは4~5年前に実現。輸送料金の引き上げは2~3年前から進行中

 建築・土木業は、「利益なき繁忙」を脱し、3~4年前に「利益を伴う繁忙」に移行しました。建築・土木粗利の上昇によって、大手ゼネコンは一時、軒並み最高益を更新しました。

 ただ、建設・土木業は今、リニア入札不正や不正工事で揺れていることに加え、2020年以降に仕事量が減る可能性もあり、投資魅力は徐々に低下しつつあります。
それに対し、これから収益性の改善が進むと思われるトラック輸送業は、投資魅力が高いと考えています。既に、最高益を更新しつつある企業も増えています。